入札鑑定

2月例会

1号 刀
肥前。反り少し浅い、元幅広い、直ぐ刃。帽子綺麗。少し映り気。
よく見る中直刃に比べ、焼き幅若干狭い。匂い口それ程深くない。刃錵が刃先に向かい直線的に止まる独特の雰囲気が顕著ではない。少しばさけて揺らぐ。
やはり代別が判らず。そろそろ判別出来るようになりたいが。。
武蔵大掾忠広と入札。

2号 刀
少し長め。反り浅め。しっかりした造り込み。帽子表たるみ、裏少し進んで丸。よく詰む新刀。
焼き低めの互の目を元から先まで。基本頭は丸い。所どころ崩れ、いくつかくびれ、離れる。
刃は細かく錵る。少々荒い箇所も。
全く分からず。何も出て来ず。。
以前研磨した助広の初期作に、こんな作品があるのかと驚いた刀がこの様な互の目だった記憶が。
津田助広初期銘と入札。

3号 脇差
焼き出し少し。大互の目を間を詰めて涛乱風。
候補が色々有るが・・・。普通は助直だと思うが、物打付近の刃調がこれなのかも。
粟田口忠綱と入札。

4号 脇差
角互の目風など交じり、腰付近に簾風が。帽子たるむ。
丹波守吉道と入札。

5号 脇差
平身。応永備前の姿。良い皮鉄が残る部分は応永杢。常よりも刃文が細かく、焼きの高低が少ない箇所が多い。普段見る応永備前より帽子まで強い互の目足が続く。
太目の二筋樋で、刃側が棟側の樋先に連れ樋風に被さる。
全体に少し変わっているが、応永か正長永享嘉吉頃なのだろうか。。
とりあえず康光か盛光にした方が良さそうだが。
長船盛光と入札。

当たりにて候
国入りにて能く候
国入りにて能く候
当たりにて候
同然にて候

2,3が全然分からん。
2号、先日研磨した初代国助が完全互の目だった。初代国助と入札。
3号、じゃぁ助直で。

当たりにて候
国入りにて能く候
国入りにて能く候
当たりにて候
同然にて候

2号 親国、3号越後包貞に。

当たりにて候
当たりにて候
国入りにて能く候
当たりにて候
同然にて候

3号、加賀守貞則→尾崎助隆で当

2号を一発で親国に入れ(もちろん偶然じゃなく)、3号も普通の見方から尾崎へと直ぐに修正出来る眼力の学生さんが凄過ぎる。
当然他も全部当たりで。天才。





備前物

備前物の押形採拓を少し減らそうと思っていましたが、先日の吉岡一文字に続きまた二口。
備前物の圧倒的な数の多さからどうしてもこうなります。これはもう仕方ないですね。
にしても二筋樋の採拓が難しい(面倒)。鎬筋を鎬筋でとる感じの仕上がりなら簡単ですが、もう少しクオリティーを上げようとすると工夫が必要です。次も二筋樋の備前刀が控えているので道具を変えます。



山本亡羊読書室

NHKで2022年1月に放送された「幕末奇譚 知を武器にかく闘えり」はご覧になられましたでしょうか。

江戸後期の儒学者山本亡羊の私塾、”山本読書室”のお話で私も大変興味深く拝見致しました。
山本読書室は当時の知の結集で、資・史・試料の宝庫だったわけですが、番組の紹介では「オタク学者の銃や刀ではなく「知」を武器にした戦いに最新科学が挑む」とされていますので、刀剣類とは無縁なイメージを持たれた方も多かったかも知れません。
しかし山本読書室には刀槍や銃などの武具も多数遺されています。
その主要な物を2年半掛けて研磨、先日ようやくお納めさせて頂きました。
現在の管理者様から押形掲載の快諾を頂いていますので、ここに一部をUPさせて頂きます。

山本読書室に遺された史料は数万点に及び、その中から近年も重大な発見がありました。
今後また新たな発見が期待されています。



隆泉苑

佐野美術館さんに数日お世話になりましたが、隆泉苑が改修工事中でした。
瓦の葺き替えで古い屋根瓦を降ろしていましたので、渡邉理事長にお願いし瓦を一枚頂戴しました。
一輪挿しの台にしようと思い頂いたのですが、このままでは大き過ぎますし、切らないとダメそうです。
味のある割れ方をして小さくなった物があればとも思ったのですが、逆に綺麗な物を選んで頂いたので、ちょっと難しいですね。
切り方のセンスが問われますなぁ。。
切った物はUPしないと思いますw

佐野美術館|登録有形文化財の日本家屋「隆泉苑」改修にご支援を(佐野美術館 2022/05/10 公開) – クラウドファンディング READYFOR
佐野美術館 Sano Art Museum (sanobi.or.jp)



大太刀全身押形

押形を収納している筒ですが、大きなサイズがあったので幅の広い紙はその筒に入れる事に。
画像中央の薙刀、普通サイズに見えますが刃長で二尺三寸六分です。
左は刃長三尺三寸、右が刃長三尺四寸六分。
大太刀(大薙刀)の全身押形採拓は本当に大変な作業になりますが、こうして並べるとその苦労も忘れます。



来国行の短刀

二字国俊の短刀は重要文化財の愛染国俊(銘 国俊 刃長 九寸五分 反り 八厘)のみとされてきましたが、平成27年、新たに二字国俊在銘短刀が重要刀剣に指定され(銘 国俊 刃長 七寸三厘 反り 三厘)、二口目の二字国俊短刀が世に知られる事となりました。(平成30年には第25回特別重要刀剣に指定されています)
二字国俊の父である来国行にも在銘の短い物が一口存在し、特別重要刀剣に指定されています。(脇差 銘 国行 刃長 一尺一分 反り 七厘 平成4年 第12回特別重要刀剣指定)
しかし近年、再刃ではありますが来国行在銘の短刀が出現しました。

刃長 七寸一分三厘 無反り 銘 国行(来/再刃)

鎌倉中期以前の短刀が粟田口以外に無かったわけがありません。
何らかの理由で残っていないだけで、必ずあったはずと考えるのが自然です。
こういう発見は本当に嬉しいニュースですね。大発見です。

以下参考に山城物短刀の押形を。
綾小路定利は光山押形所載で、こちらも定利唯一の短刀とされる品です。

無銘粟田口則国 八寸三分五厘 内反
第22回重要刀剣指定
綾小路定利 八寸四分五厘 内反
京のかたな展出陳
二字国俊 七寸三厘 反り 三厘
第25回特別重要刀剣指定

二字国俊短刀 | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区 (kyoto-katana.com)






映り

吉岡一文字生ぶ茎の太刀、内曇りを引く。
研磨前、全身発錆過多にて研磨必要状態。各錆部分研磨にて除去。発錆箇所多数につき内曇以降全身研磨。


図譜解説には「幽かに映りたち」と書かれ現物を見ても確かにその状態。というかほぼ映りは確認出来ない淡さ。
刃文は吉岡で良いと思うも、もっと映りがあってもよかろうに・・・。
旧研磨は内曇りの効きも良く、小肌を意識した良い研磨。刃取りは薄いが拭いもしっかり効いて好感の持てる仕上げ。
因みに砥当たりは非常に柔らかい。内曇りの研磨時間は新刀の5分の1程度か。つまり通常40時間必要なところを8時間で済む。それでいて明るさは新刀上作と同等かそれ以上。(時代が下るにつれ「柔らかい=眠い」となるが、古名刀は然にあらず)

今回内曇り刃砥を引き、映りの出現度合いに驚く。
焼き出しから横手下まで、こんなにも明瞭な乱れ映りが眠っていたか。。
映りは焼き入れにより発生する現象だが、研ぎ上がった刀に視認出来るかどうか、それは研磨次第。日々の研磨でよく分かっているつもりで居たが、ここまで鮮烈に体験したのは初めてかも。
元の木阿弥にならぬよう一旦置き、明日から新作下地研磨に入る。