日刀保京都府支部5月例会

入札鑑定

一号 刀か
反り浅め。二尺四寸台か。 ハバキに掛かる梵字が表裏。二寸ほど空いて棒樋。中鋒。映る。焼き幅低め、小湾れに互の目。帽子クルリと丸い。

備前か。この帽子は見ない気がする。信国だろうか。ちょっと保留。

 

二号 太刀
一号よりよく反る。焼き幅低い互の目。所謂小詰む刃文。板目杢目がよく見える。

この地艶の使い方と拭いの雰囲気、以前出た事があると思うがいつ見たか全くわからん。
小反成家と入札。

 

三号 脇差
応永本造脇差の姿。応永杢を沈めた地の研ぎが美しい。互の目だが正系ではないと思う。

これも出た事があると思うが誰だったか全くわからん。が、小反には違いない。
小反家守と入札。

 

一号 これも地と刃からやはり小反だと思う。個銘は分からないが各の高い刀なので代表工に。小反秀光と入札。

 

四号 脇差
応永か勝光辺りの反る姿。造り込みが垢抜けていて、刃三つ角もしっかりして研ぎ崩れていない。
地は見えにくい。身幅に対し焼き幅少し広め。助真、真守、吉岡などの様な刃文で働き豊富。研ぎのかげんもあるが、明るい刃。
ハバキ上の地刃を見ると生かそれに近いと思う。また姿もその様に思う。

反りが浅ければ、鎌倉の大磨上げ脇差と見たい刃文。
このサイズのこの人に頗る好い品を度々見るので入れてみる。大宮盛重と入札。

 

五号 刀
反り浅い。少し鎬高め。直刃調で刃縁が細かく動く。地全体に錵映りがかぶる。

ん~、これは当てるのは難しいと思う。分からないので平安城長光と入札。

 




イヤ
イヤ

 

四号 備前でイヤになってしまった。なるほど、そういう事か。 金房正真と入札。
五号は無理。宇多国宗と入札。

 




イヤ
通り(最初はイヤのヒントで、ならばと平長盛と入札したが、ヒント間違いで通りと訂正、再入札)

 

四号 金房で通りですか。まさかとは思ったがこれだわ。鞍馬関重次と入札。
五号 手掻と入札。

 





 

一号 太刀 銘 備州長船守久(小反)
二号 太刀 銘 備州長船吉次 永徳三年十一月日(小反)
三号 脇差 銘 備州長船家守 応永十三年十二月日(小反)
四号 脇差 銘 重次(鞍馬関)
五号  刀 銘 勢州雲林院住包長 永正四年十二月日



研磨実演

先日、兵庫県の黒川古文化研究所講堂に於きまして刀剣研磨実演をさせて頂きました。

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当日は大変多くの方にご来場いただき、様々なご質問を頂戴しながら錆身の窓開け研磨を行いました。
天然の備水砥、改正名倉砥、中名倉砥、細名倉砥、そして内曇砥と研ぎ進め(一部人造砥石も使用)各種艶砥石、拭い、刃取り、磨きと全ての工程を行い窓開け研磨を完成させました。
普段の研磨作業はただ黙々と研磨をするだけですし、実演となると会場には研ぎ音だけが響くという時間も予想され、どうなる事かと心配していましたが、ご来場の皆さんは大変熱心に作業を見て下さり、質問の多さからもその関心の高さが伝わりました。
この様な貴重な機会を与えて下さった黒川古文化研究所さま、色々とご尽力下さった研究員の川見典久先生はじめ職員の皆さま、そしてご来場いただいた皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。

来場者さんから研磨動画を頂きました。
自分が研いで居る姿は見る機会も少なく、物珍しい気持ちで見させて頂きました。
短い動画をUPしますので物珍しい気持ちでご覧頂けましたら幸いです。


備水砥による研磨

内曇砥による研磨

刃取り研磨



鞘師

多数の刀を所蔵する愛刀家や、多数の収蔵刀がある施設の刀を拝見する事は多いが、”見事に管理が行き届いている”という例はそれほど多くない。
管理に関する問題は様々あるが、一番は錆。これは刀を扱う上で必ず起り、数が増える程に大きな問題となる。
何故錆びるか、何故錆びた刀があるかは、予算の都合や意識の問題など様々。

刀の錆とは、少々錆びていても刀とはこういう物だと思って居る人にはそれ程気にはならないらしく、所蔵刀の大半が錆びている様な例にも度々出会う。
元々錆びた物を入手したのならまだよいが、入手後に錆びさせてしまう事も非常に多いと感じる。
入手後錆びさせたがそのままでいる理由は、「研ぐと高くつく」、「これでも十分鑑賞できる」など。 まぁ仰る通りだが。

公共施設の場合、近年の刀剣ブームのおかげで入場者数が増え、刀に掛けられる予算も増額、それにより修復が行われるケースも多いと聞く。
これは素晴らしいと思う。これに関する弊害、、ん~。 行列になりゆっくり見られなくなる事くらいか。。まぁ皆さん我慢しましょう。

管理が悪く錆が発生した場合、全身に赤錆黒錆が出る様な例は稀。
(過去ブログにあるはずだが見つからなかったが、僅か五年で初代忠吉がボロボロに錆びた例、防虫剤が原因で1年に100年分の錆が出た例などは有った)
多くの場合、部分的に白、赤、黒の錆が発生している。短期発生の場合唾錆が多いが、中長期間で発生しそして悪質なのが、鞘当たりが原因と思われる錆。
鞘当たりが原因と思われる錆は、安定せずにどんどん進行する物が多い様に感じる。

どんどん進行するとは言え、鞘が当たっている箇所が主なので、範囲は狭く限られている。
この様な錆は研師による部分修復研磨により除去する事が可能だが、同時に鞘師による白鞘の割鞘修理が必要となる。

研師によっては部分研磨を嫌がる人も居ると聞き少し驚くが、確かに部分研磨は面倒であり難しい場合もある。
色を合わせるのが難しい、そのノウハウが無い、全体研磨の方が儲かるのでそれを勧めるなど理由は様々。そして部分研磨のみでは無理で、どうしても最低限全体の仕上げ研磨が必要な場合がかなり多いのも事実で。

さてさてちょっと前置きが長くなってしまったが、刀に錆を発生させず適切に管理し、より良い状態で後世に伝えて行くためには、研師よりも刀鍛冶よりも、まずは管理者の意識向上とそして”鞘師”の力が何より重要!
研師の仕事に就き27年ほどになるが、鞘師の重要性を本当に分かっている人に出会う事は少ない。そして大変書き難い事だが、鞘師の重要性を分かっていない鞘師もまま居る事も事実。
以前書いた事もあるが、鞘師の仕事は本当に凄い(正確に言えば、刀職皆それぞれ誰にも理解されなくとも凄い事をやっている人が大変多い)。
同じく刀に関わる研師から見ても、「その様な誰にも見えない、誰にも分からない部分にそれ程の時間と手間を掛けているのか」と驚く事が大量にある。それが鞘師の仕事。
この誰にも見えない、その刀の所有者にすら全く気付かれない事も多い技術が鞘師そして刀職全般の仕事であり、刀をより良い状態で後世に伝えるために欠くとこの出来ないものだと思う。

 



日刀保京都府支部4月例会

4月支部例会 入札鑑定

一号 短刀

反り少し強め。フクラ枯れ気味。元先平に元来の兼光地鉄が残る。総体に互の目勝ちでフクラ付近角互の目顕著。
表素剣、裏櫃中に行剣巻龍。

反りが強いので異風な感じを受ける。刃文が片落ちや角互の目で、帽子を尖らせない場合の兼光や景光の処理の仕方に似ると感じる。ただ、あの刃文で尖らせないとなると誰でもこうなるのかもとも思いながら見る。正直彫り物に興味が少なく、兼光にこの彫りがあったかどうかが分からない。草倶利伽羅や孕み龍のイメージしかない。 分からないので兼光と入札。

 

二号 刀

鎬高く、棟重ねも厚く、重量感がある。反り浅い。地肌は詰み気味で、白い鍛接肌が若干目立つ。総体に映る。広直刃調に刃中の足や働きが大変豊富。下半は錵付く丁子が目立ち元来か減りかは不明だが離れて蛙子風の丁子も含む。

地肌の特徴、帽子の風情、刃文から、畠田真守と入札。などとカッコよく書きたいところだが、この刀は以前全身押形をとらせて頂いたのでよく覚えている。

 
三号 太刀

少し反り浅め。三作帽子。なので、それほど長くはないが茎尻に銘有りの太刀だと思う。
大変よく詰み整う地鉄。刃寄りと言っていい高さで全体に乱れ映り。映りの頭の境界が硬い。大変締まる直刃調の刃文。腰に向かい「キリっと」と表現したいほど締まる。完全な直線の直刃ではなく、微妙に節が多数ある。明るい。

三作で真長しか思い浮かばないが多分違う。長船真長と入札。

 
四号 脇差

表平造り、裏切刃。幅若干広め。フクラはそれほど張らない。表素剣。裏護摩箸梵字。微細にカス立つ地鉄。湾れに互の目。匂い口の密度は濃いと思う。

度々研磨させて頂いたり、拝見する典型作。平安城弘幸と入札。

 
五号 刀

差し表中央付近は元来の匂い口を残すが総体に染みごころ。正直、なんと表現したらよいか分からないが、小乱れ小丁子小互の目が間を詰め複雑に乱れていると思う。焼き頭から地に向かい全体に映る。各所に焼き頭から繋がり湯走り調の飛び焼きが点続。帽子も同調に乱れる。

綾小路の典型だと思うが、特にこの調子の場合、末行の極めを見る事が多い。 綾小路と入札。

ヨク



一号、兼光ヨクでしたか。ここに来て、以前見てる様な気がしてきた。というか多分出た事がある。
兼光ヨクなら小反りしかないが、個銘は無理、思い出せない。 秀光と入札。
三号、あぁ、同然ですか。。これも以前出ている気がしてきた。山城の大宮延秀とか、印象はそれに近い(作風ではなく)。





一号 短刀 銘 備州長船貞守(南北朝末期乃至応永)
二号  刀 無銘(畠田真守)(鎌倉時代末期・重要刀剣)
三号 太刀 銘 助長(長船)(鎌倉時代末期・重要刀剣)
四号 脇差 銘 平安城藤原弘幸(慶長頃・重要刀剣)
五号  刀 無銘(綾小路末行)(鎌倉時代後期)

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