鞘師

”鞘文”の通称で知られた鞘師斎藤文吉(東京)が製作したかも知れない白鞘があり調べていました。
斎藤鞘師はかなりの名人で、平井千葉ら名人研師と共に数々の名品の鞘を手掛けたそうです。
手元にあるこの鞘、割れば中に鞘師の銘が有るかも知れません。

関西にも名人といわれた鞘師がいました。奈良の杉本繁雄鞘師。
以前刀美で杉本鞘師の事を調べていて生前のインタビュー記事を見つけました。
文面にかなり強めの大和弁が再現されていて、お話しぶりが軽妙で実際の杉本さんの雰囲気、お人柄が伝わるインタビューです。
戦中は軍刀拵の製作に携わり、終戦後は河瀬虎三郎はじめ多くの有名愛刀家と常に関り、重文・国宝の白鞘修復や製作を多数行ったそうです。
記事中、鞘に押す刻印のお話がありました。一時期ですが入念作には大阪の鍛冶に作らせた刻印を押したそうで、私も過去にその刻印の有る白鞘を見た事があります。

研ぎ場にかけている肥後拵図。
この拵は杉本鞘師最晩年の作品で私が18の頃からお世話になっている方が直接製作依頼した物です。
その時の杉本翁とのエピソードを何度か聞いた事があります。

拵製作依頼後、かなりの期間を経てようやく完成の連絡があり引き取りに。
完成した肥後拵は期待通り大変美しい仕上がりで以来者は感激。

 依頼者「先生ありがとうございます! 先生、大変恐縮ですが柄に「杉本」の刻印を押して頂けないでしょうか」
 杉本翁「なんでこんなもんに押さなあかんねん」
 依頼者「苦笑」

笑わそうと思って言ってるのではなく、「こんなもん」と本気で言っているのが面白いです。
この肥後拵、柄から縁金具を外した箇所に杉本の刻印が入っています。



入子鞘

古い白鞘に当たりがあり、割鞘をしてもらうため長船に。
刀身を抜き鯉口の象牙を外して頂いている時、不意に入子が頭を出しました。
入子鞘の場合、鎺袋を覗くと入子を引っ張り出すための角製の器具が内臓されていたり、引っ掛けるための穴が有ったりするので直ぐ分かります。
しかし今回の鞘は、引っ掛ける穴が少々奥に空いており、私は全く気付いていませんでした。
鞘師さんは刀身を抜いた時、若干ヌルッとした様な感覚があり、入子か?と思われていたそうです。この御刀を所持されている方も入子には気づかれていませんでしたので、やはり本職とは凄いです。
入子を抜くと、墨による旧所蔵者の署名がありました(著名な人物です)。
伝来不明の古名刀だったのですが、その一部が判明しました。



釜作が気になり

釜作貞宗が気になって久々に(20年ほどぶり?)探しましたら、えらく古い刀美に載っていました。
6冊に渡っています。



釜作貞宗

いつもお世話になっている方から国立博物館のシンポジウムのレジュメを見せて頂きました。
私の周りには、古刀の原料は一般に信じられている様な物ではないとの考えをお持ちの方が多いのですが、今回見せて頂いた内容はそれをしっかり裏付ける物でした。国立博物館からこの様な発信がされた事は非常に大きな事で、刀剣界の常識をちゃんと見直さないとダメですね。

昔、釜作貞宗の事をブログに書いた事がありました。
釜作が現実味を帯びてちょっと面白いです。(貞宗銘が正真だと言いたい訳ではありません)
名研師たち | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区 (kyoto-katana.com)