姿(追記)
在銘の末手掻短刀と備前貞治年紀寸延の全身押形を採拓。
以下末手掻の簡単な調書。
刃長27.1㎝
内反り
元幅20.9(22.4)mm
元重6.3mm
茎最厚7.0mm
平造り、三ツ棟(中筋細い)。寸の割に身幅狭く、重ね厚く、全体に強めに内に反る。
(区、極僅かに送るか)
茎鑢檜垣。棟強めに肉が付き、刃方は角。棟、刃方鑢不明。茎刃方の重ね薄く研磨時痛い。
茎尻栗尻、目釘穴3、鎺下に銘。
地鉄、板目に杢交じり、刃寄り少し流れる。地景入り良質。
刃文、直刃。表ふくら下に湾れを見せ、小錵付き、砂流し入り、湯走り現れる。
帽子丸く、少し焼き下げ。
末手掻は8寸9分4厘で元幅20.9mmと身幅が少し細く見え、庵高が三ッ棟なのに1,5と高く、重ねが厚い。元から先まで全体に強めに内反っており、室町中期~後期の姿。
南北備前は生ぶで、刃長1尺4分。少し反ってフクラ張らず。茎は短めで反りが付き、栗尻張って茎尻の棟先に力がある。
茎尻の棟先に力があるのは鎌倉末期長船やその周辺工の太刀にも見る物ですが、完全な生ぶ茎でなければこの形状は残されず、実は貴重な状態と言えます。茎を伏せた太刀には残念ながらこの力強さはありませんし、短刀でも茎棟を擦った物は多い。
石華墨で茎を擦りだす時、茎尻の棟先に力があるとそこに石華墨が引っ掛かり、心地いいんです。だからか、この姿の力強さと貴重さには敏感で。
先日採拓した享保名物の短刀はこの工の数種ある姿の一つである事がよくわかりましたし、先日途中で終わっている相伝享保名物の姿は、しばらく前に採拓した同工のもう一つの享保名物と同種である事を強く感じました。
鑑賞と研磨では得られない物が押形で補えているかも知れません。
刀姿は時代ごとに流行があるとされます。鎌倉期の腰反りや室町期の先反り、慶長新刀や寛文新刀の姿など。
それとは別に、流派や各刀工それぞれの得意な造り込みや好んで造ったのかも知れない物、また手癖が現れた物も多くあります。
押形一つとっても採り手の個性が強く出るもので、見れば誰の押形かは分かりますし、刀も多く造るほど個性も固まってくるでしょう。
鎌倉末期の備前の力ある茎尻形状もですが、大和物の鎬高の造り込みなどは代表的なところ。これは上げればきりがなく、先日ブログに書いた藤島特有の造り込み、入札鑑定時よく感じる親国の脇差姿(鎬造平造問わず)、越後守包貞の切っ先形状、清麿の棟先、虎徹の独特な造り込み、尻懸・当麻短刀の造り込み等々。
時代の反りもそうですが、これらは事前の知識なく見ても気付く事は難しいものです。自らの感覚で気付くためにはかなりの数を見る必要がありますし、とにかく自分の感覚の感度を上げなければならず。感度を上げるにはやはり沢山見なければで、長い年月を要します。
享保名物全身
本日は出先にて相伝某享保名物の全身押形を採拓しました。
出先での採拓は失敗が許されずですが、万一に備え紙は何枚か準備して行きます。
今回は全長等数値データがあり位置決めも事前に出来ますので現場での作業もスムーズに。
先日来複雑な刃文の則重を数日かけてじっくり描いていたので、そこそこ複雑な相伝刃文でも問題なく対応できました。
とはいえ長物の相伝採拓は一日では厳しく続きは次回。作業を安全に終える事が何より大切。
棟の線
また押形ですが・・・。
私は昔お教え頂いたやり方で、庵の頂点の線は棟角でとります。その線を区から横手付近までとって一旦紙を外し、上下逆にしてまた棟角に当て先端に結ぶ、そのやり方です。これを短刀でも同じ様に行ってきましたが、時によろしくないのでは?と思う事も。しかしまぁ流れでその様に。
今さらですが、最近とった内ぞり短刀を、返さずそのままずらして棟先に結ぶ様にとってみましたら、大変具合よく仕上がりました。
教わった事しか出来ない人にならない様に心掛けていますが、まだまだ色々ありますねぇ。。
新作写しもの
本能寺大寶殿宝物館にて開催中の「武士の表道具とその価値展」。
全身押形の展示に吉田正也刀匠の「太刀 銘 正也 令和七年春(山鳥毛写)」を使用させていただきました。

「山鳥毛写し」と呼んでよいのかどうか、ご本人に確認していませんが(押形展示の許可はもちろん頂いています)、この様な作品は”○○写し”と呼ぶ慣わしです。
さてこの太刀、山鳥毛をある程度知る人は茎を見れば直ぐ分かると思いますが、「山鳥毛写」と書かなければ分からない人もかなりいるのではないでしょうか。なぜなら、腰元のあの特徴的な破綻部を再現していないからです。
山鳥毛の本歌は、現状表裏の腰付近の丁子が崩れ、佩表には極めて印象的な飛び焼き風のあの箇所があり、また物打上の刃は下がり、横手下から帽子にかけてかなり低い焼きとなっています。
山鳥毛里帰りプロジェクト | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区
この状態が当初からか、それとも研ぎ減りが原因かは意見が分かれるところかも知れませんが、私は腰の状態などは焼き入れ直後からこれだと思っています。
以前ある刀匠さんから「山鳥毛を写す場合、あの腰の破綻部をいかに再現するかで評価が決まっているのでは?!」との指摘を耳にしましたが、私もその様に感じていて。
”写し”も考え方は様々で欠点まで再現する事はよくあるわけですが、山鳥毛に関しては、もうそろそろいいんじゃないでしょうか。破綻の無い、完璧な山鳥毛写しが評価されても。
吉田刀匠のこの太刀。破綻無く、丁子の房がむくむくと沸き立ち、帽子もこの種の新作によくみる一枚風にならず福岡一文字風となり、佩表は綺麗に小丸に返っています。
研磨しながら「山鳥毛の完成形」と感じ、全身押形を採拓しました。
出張にて全身採拓
某享保名物の全身押形を採拓。
出先でとる場合、所載品などは事前に練習してから臨む事も度々です。
山鳥毛の時は適当な刀で外形をつくり、過去の押形を参考に幾つかのバージョンを試しました。
しかしこれ、ゼロ状態で臨むよりは多少慣れると思いますが、模写と実際は別次元の作業なので、大した効果は無いのかもです。
実際の作業では刃文を正確に写し取る前にまず、置いた状態の刀の刃文を見るのが大変ですし、白を黒に変換したり、色んな事があるわけです。
上の模写は30分ですが、実際の作業は片面1日半かかりました。(今だともう少し早いはずです)
ただやはり事前にどなたかが描いた押形で刃文を確認できれば色々助かるのです。
で今回は過去の押形は無いと勝手に思い込んでいたのですが、名著に超正確な押形がありました。
確かに。そういえば有った事は知っていた。ボケとります。
諸々
古備前の在銘の全身押形採拓。
越中物短刀全身押形下書き。普段は下書き無しでいきなり墨入れが多いのですが、今回は短刀片面の下書きで二日かけてしまった。
ご近所さんの大門研師に地砥をお借りして引く。
私は結構色々試すタイプの研師だと思って来ましたが、大門研師に比べると全然ですね。こんな石は初めてです。
地肌が出る原理はよく分かりませんが、硬い石だから地肌が出るとは限らず、それは以前から認識していました。
しかしここまで柔らかい石でこれだけ肌が出る経験は無く。
また砥石探しの旅が始まるのかぁ・・・。これがなかなか辛いのです。
棚か倉庫に同じ性質の石は眠っていないだろうか。。多分ない。
「武士の表道具とその価値展」本能寺大寳殿宝物館出陳刀

本能寺大寳殿宝物館で開催中の「武士の表道具とその価値展」。
主な展示刀10口分につきまして、刀剣と合わせ、見どころ解説付き全身押形パネルを設置しています。

展示例
・太刀 銘 石州出羽住直綱作(重要美術品)
刃長2尺2寸8分7厘
反り4分5厘
元幅31.0mm(32.1)
元重7.3mm(7.4)
先幅21.9mm(22.5)
先重5.1mm(5.5)
茎最厚8.1mm
鎬造、三つ棟。
反り浅め、身幅広く、重ね厚く、茎短く、中鋒詰まる。
棒樋に連れ樋を茎尻まで掻き通す。
ヤスリ目切り。棟僅かに肉、刃方も肉あり。茎棟ヤスリ切り。茎尻、刃上りの栗尻。目釘穴2。
地鉄、板目肌詰み、地沸付き地景入る。鎺下より淡く焼き出し映りが立つ。
刃文、腰付近焼き幅狭く、腰開きの角張る互の目等を焼き、上に向かい焼き幅を広め、角張る互の目を間を詰めて焼く。刃錵が強く、特に焼き頭や谷に錵がこごり、飛び焼き、湯走りかかり、金筋目立つ。
帽子、乱れて先掃きかける。
※刀剣専用の展示施設ではないため照明設備が不十分で、一部展示刀に刃文が見え難いものがあります。
「武士の表道具とその価値展」本能寺大寶殿宝物館
9月6日より、本能寺大寶殿宝物館にて「武士の表道具とその価値展」が開催されます。

展示刀は以下の通りとなっています。
太刀 銘 石州出羽住直綱作(重要美術品)
小太刀 銘 国行(来)
刀 無銘 延寿(重要刀剣)
短刀 銘 正宗(と銘あり)(本阿弥光温折紙付)
太刀 銘 備州長船兼光(本阿弥光忠折紙付/重要美術品)
太刀 銘 来国俊(本阿弥光常折紙付/特別重要刀剣)
短刀 朱銘 則国 本阿(花押)(本阿弥光忠折紙付/重要刀剣)
短刀 銘 来国光
脇差 銘 長谷部国重(本阿弥光常折紙付)
刀 銘 広次作
今回の展示では10口の出陳刀につきまして、鑑賞補助用全身押形パネルを設置しています。
押形パネルで刃文等を確認しながら刀身を鑑賞していただけます。
また、平置き展示ケースには以下の全身押形も展示しています。あわせてご覧いただけましたら幸いです。
刀 銘 繁慶(永藤一コレクション 京都国立博物館蔵)
(2024年度、京都国立博物館修理事業に際し記録として全身押形採拓)
太刀 銘 正也 令和七年春(山鳥毛写)
太刀 銘 国行(来)(重要美術品)
短刀 銘 国広鎌倉住人
元亨三年十月二日(新藤五国広)


古い太刀
代を重ねる某工の現存品中最も古い時代の太刀があった。
凄過ぎた。