手順

両鎬槍の拭い作業。
両鎬なので4面あります。やり方は複数。
例えば、鎬の左面から始めるとして、次に裏に返し、また左面。
手を変えて右面、裏返してまた右面。これで四面。手を変えないパターンもあります。
鎬の左右両面同時に行い、裏に返しまた両面同時のパターンも。
順番など、どうでも良さそうに思いますが、仕上がりに影響があったりします。
今日は拭い作業を行っている面の裏がヒケだらけになってしまいました。原因は手荒れ。
私は手の皮が薄いので、荒れと言ってもソフトなものですが、それでも荒れた手の皮は刀身表面には強過ぎます。
以前、剣の拭いで同じ失敗の経験があり気をつけて来たのですが、今回は忘れていました。
やり直し。

鎬造りの鎺元の化粧磨きにも順番があります。
これは人それぞれでしょうが、私は必ず、左端、右端、中央、左中央、右中央、左端中央、隣中央、隣中央、隣中央、左端の外、右端の外。
鎬地幅を測り線の幅を計算せずとも綺麗に11本の化粧を引けます。
つまらん話でした。



京都府支部秋旅行

日刀保京都府支部、秋の研修旅行が久々に行われました。
参加者は20名弱。こんなに多い研修旅行は私が入会して以降では初めてだと思います。
行き先は長船刀剣博物館と大山祇神社。
長船刀剣博では現在『秋季特別展「赤羽刀とたどる戦後の刀剣史」』が開催中で、学芸員の杉原賢治先生がそれぞれの作品について詳しくご解説下さり、見識を深める事が出来ました。
私は赤羽刀には正直なところそれほど良い刀は無いと思っていたのですが・・・展示を見て大変驚きました。名品多数。
会期はあと少し。長船刀剣博へgo!です。

大三島は初めて行きました。大山祇神社。
事前に「大三島の刀剣」を購入していたので大体は把握しているつもりでしたが、やはり実物の力は凄いですね。
まず一階の薙刀群が凄く。それから大太刀、古太刀と続きますが、ほぼ全てに鉄鎺が着装されています。
支部会員さんが「鉄鎺ってこんなにも有るものなんですね(笑)」と冗談を仰られましたが、正に。
こんなにも次から次へと鉄鎺が続く体験は他では出来ないでしょう。
そして展示の後の方で不意に金着鎺が。言葉を選びますが、この並びでの金着は私には強過ぎてダメでした。金着鎺に抵抗を感じるなんて初めての体験です。
刃文を見せるための照明などはほぼ有りませんが、私は一切気になりませんでした。もうそこに存在しているだけで十分過ぎて。






わかやま歴史館「南紀重国とその時代」

昨日研ぎ場にて、南紀重国の脇差を拝見しました。初代は久方振りかもです。
重ねが厚く、鎬がやや高く、鎬地幅がかなり広い造り込みです。
地錵がよく付き、全身に細かな地景が著しく現れ立体感が凄い地鉄。
直刃調で南紀の大和伝と分類されるタイプですが、柾気は無く、刃中の錵は大和五派中でいえば手掻よりも当麻に匹敵するレベル。(むしろ凌ぐと思いますが)
「新刀鍛冶で最も技量が高いのは誰ですか?」と問われると、いつも即答で「南紀です」と答えて来ましたが、今後もそれは変わらないですね。やはり凄い刀を造る人です。
駿府の包国刀も拝見。こちらは完全な手掻伝。反りはかなり浅く寛文新刀風ですが、特に物打下から中央付近の真っ直ぐ感が強い姿。包国は乱れ刃しか見た事が無く、完全な大和伝は初めての経験で大変勉強になりました。

現在、「わかやま歴史館」にて「南紀重国とその時代」が開催中です。
重国はじめ、包国や安廣等多数の展示があります。南紀重国の現存数は決して多くなく、鑑定刀等に出て来る事は稀です。
新刀の最高峰といえる南紀の作品をこの機会に是非ご覧ください。



肥前刀、内曇を引く

これの内曇を引く。
先日、細名倉までの工程は大変良い砥当たりだと書いたが、内曇も引きやすいとは限らない。
という事で、やはり内曇工程は少々苦労をする事になった。
近年メインとして使用してきた内曇砥は軒並み効かず、久々にHP「天然砥石比較」の砥石№61を砥台に。
天然砥石比較 60,61 | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区 (kyoto-katana.com)
この砥石、比較的柔らかい砥石という認識で使用していた時期もあったのだが、「砥質が硬く研磨力も弱い」との認識へと変化し使わなくなっていた。
久々の使用の結果、砥石№20,22,23,24,25,26と同質、或いは非常に近い砥質と判明。
天然砥石比較 20 | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区 (kyoto-katana.com)
天然砥石比較22〜26 | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区 (kyoto-katana.com)
これらより多少硬い気もするが、研磨力は非常に高い。
砥石比較ブログを書いた当時、砥石№61の研磨力を「4」としていたが「6~7」に訂正したい。
結局この肥前刀はかなり硬い鉄という事になるのだが、硬さと研ぎ難さは必ずしも比例するものではない。
今回の様に硬い鉄であっても細名倉までの下地研ぎでは非常に良い砥当たりと感じる事もある。
そして今は内曇に苦労している訳だがこの後仕上げでも苦労するかといえば、それもまた単純ではない。
この刀は「差し込み研ぎ」で研ぎ上げる予定だが、おそらく非常に研ぎやすいと感じながら仕上げ研磨を進める事になるだろう。



研磨諸々

乱れ刃の肥前刀、点在する錆の除去から細名倉。
細名倉がこんなにも効いてくれる刀は久々かも。
砥当たりはサラッとしていて張りもある。前工程の砥目が抜けやすく、今付く砥目は浅く細かい。
直刃の肥前刀より断然研ぎやすい。
ただ、内曇りやそれ以降も同じ砥当たりかどうか、進んでみなければ分からない。

室町中期の年紀入り三尺錆身。茎状態は完璧で未だ薄っすらと茎が光る。
かなりしっかりと生ぶ刃が残り奇跡的な状態。
上身の錆は全体に深く、錆切りだけで1週間程度は掛かると思う。



日刀保京都府支部入札鑑定

講師は熊谷和平先生。

1号 太刀 おそらく二尺六寸程で長寸、目立って腰反り、元幅大変広く踏ん張りがかなり強く完全に応永姿。
腰の開く互の目で、元の20㎝程度は鎬に届き皆焼状。全体に刃肌が目立つ。棒樋と連れ樋を鎺上で丸留め。

姿は応永だが応永で焼きが高く皆焼がかる物を見たことが無い。この部分が与三左衛門尉の皆焼と同じ形状。
姿や地鉄を取るか一部の焼きを取るか。。
与三左衛門尉祐定と入札。

2号 太刀 直ぐ調の小丁子、所々頭が飛び出す丁子。板目流れ全体に映り。

若干小詰むが雰囲気が良く、古く見たくなる。
吉岡一文字助光と入札。

3号 脇差 目立って鎬高。詰む地鉄で流れ無し。匂い出来の細直刃で少し揺れる。沸えの砂流しと湯走り。
中鋒の形良く、先表裏少し返る。横手を横切る砂流し。小鎬先上がらず。

完璧で大変良い手掻。
手掻包永と入札。

4号 脇差?刀か。中鋒延びフクラ張る。帽子倒れ。少し肌立ち気味。全面に映り気があるも沈む。匂いベースの直刃で匂い口に荒い沸えが斑に。長い湯走り。

刃錵が堀川。この渋さはこれだと思う。
大隅掾正弘と入札。

5号 短刀 ほぼ無反り。姿尋常。大きめの板目。匂い出来の細めの直刃で全体に沸えが付いて中直になり整う。帽子綺麗に丸く。棟角に焼きが目立つ。

この刃はなんだったか。。度々研磨で経験する大変良い刃。
こんなに綺麗な丸帽子があるかどうか不明だが、左安吉と入札。

能く
能く
時代違いイヤ

イヤ

色々選択を誤ってしまっている。

1号康光、2号家助、3号南紀重国、5号宇多國房と入札。



イヤ

3号、包永で当たりと思い、南紀で当たりと思い、次が無くなってしまった。
もしかしたら仙台にも柾以外があるという事でしょうか。
仙台国包と入札。



イヤ

1号 太刀 銘 備州長船貞家
        応永廿八年二月日
2号 太刀 銘 備州長船盛光
3号 脇差 銘 肥前國住人忠吉作
4号  刀 銘 大隅掾藤原正弘
        日向國住
5号 短刀 銘 宇多國久

忠吉の包永狙いは完璧で凄過ぎでした。
忠吉もよぎったのですが、ここまで凄い写し物を過去見た事が無く、選択できず。
5号の刃はそういえば何度か研磨させて頂いた大磨上げの古宇多の刃でした。こういう作品があの極めの元になっているのですね。
大変勉強になりました!!




文明十三年紀の両刃短刀

先日来進めている大太刀(大薙刀)の押形の前に、古備前在銘太刀、肥前忠吉刀と、両刃短刀の押形を採拓。
この両刃短刀は以前より京都府支部長の吉村滋太先生からお聞きしていた文明十三年紀の両刃短刀です。
日刀保京都府支部10月例会 | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区 (kyoto-katana.com)
 ↑この冒頭にも少しだけ触れています。

吉村先生から、両刃短刀の上限とされる年紀より古い物だとお聞きしていましたので、両刃短刀の上限年紀について刀美で調べましたところ、刀剣美術誌、第544号(平成14年5月)に「文明十四年紀の両刃短刀について(横田孝雄)」という文章が発表されていました。
この発表時点では文明十四年紀の両刃短刀が最古とされ、以下の3口が紹介されています。
 ・備州長船□□忠光 文明十四年二月日
 ・備州長船忠光   文明十四年八月日
 ・備前国住長船左京進宗光(花押) 文明十四年八月日 主宗国

今回押形を採択させて頂いた両刃短刀は、「備州長船忠光 文明十三年八月日」の銘で、平成14年の段階で上限とされている年紀より1年古い物。
平成14年以降既に同じ文明十三年紀の両刃短刀が、或いはさらに古い物が発見されている可能性もありますが、もしも無ければこの短刀が最古の両刃短刀という事になります。



木硯

押形展示の件で刀剣博に行った時、木硯(もっけん)の存在を教えて頂きました。
デアゴスティーニの週刊日本刀84号の特集記事「押形の美学」にも書いて頂きましたが、私が押形採拓時に毎回一番強く意識している事は、正確な押形を描く事でも美しい押形に仕上げる事でもなく、安全に作業を終える事です。
ですので道具は出来るだけ安全な物を使いたく、機能上使用する事のあるシャーペンもティッシュで包み万一の事故に備えた状態で使っています。
そんな中、刀の周辺に置く一番硬い物が硯で、これだけは仕方ないと思っていたのですが・・・。

木の硯があるなんて全く知らずでした。
出先で国宝や重文などの押形採拓を行う事も度々ですが、これだと安全度も上がります。

なるべくコンパクトな物が好きなので、特注で小さな木硯を。
細かな注文にも関わらず何度も詳しくやり取りして下さり、おかげで毎日気持ちよく使える素敵な道具を手にする事が出来ました。
感謝感謝です。