草薙廼舎

昭和48年、日刀保全国大会が京都府支部主催で開催され、その記念として「草薙廼舎押形(くさなぎのやおしがた)」が出版されました。
この本は京都府支部第二代支部長で京都の老舗刀剣店「草薙廼舎(くさなぎのや)」の三代目であった岸本貫之助先生手拓の押形を佐藤寒山先生が編集した押形集です。(草薙廼舎は今はもうありません。どこかでよく似た名前のお店がありますが関係ありません)。
この「くさなぎのや」の屋号は貫之助先生の御先代正之助翁が、公卿であり刀鍛冶でもあった千種有功卿から賜ったものです(有功自筆の看板もあったという事で私も先輩方にお聞きしてみましたが、現在は所在不明)。
最近ではネット上でも度々話題に上がる事になった「光徳刀絵図」には幾つかの本が存在しますが、草薙廼舎はそのうちの寿斎本を所蔵していた事でも知られます。
草薙廼舎の顧客には政財界の大物も多数いたそうで、以前調べていた所こんなHPがありました。
犬養木堂の書
上記HPの中程辺りに犬養毅と草薙廼舎との書翰が複数あります。今も昔も愛刀家の気持ちは変わりない事が分かって面白い。それにしても相当な刀好きですねぇ犬養毅さん。。
草薙廼舎押形には古刀から新々刀の超名品から一般に流通している品までが幅広く掲載されています。私もこの本所載の品を多数拝見し、また研磨をさせて頂きました。刀剣書は勉強するためはもちろんですが、見たり研がせて頂いた品を探す楽しみもあります。



木屋押形

ちょっと久々に大型書籍を購入しました。
木屋押形。昔から欲しかった本です。
届きまして早速荷解きを…。しかし一冊しか入っておらず。。木屋押形は龍乕二巻のはずなのですが。。
で、開いてみて初めて知りました。

この様に長い一枚状の物を折り重ねて本にしています。そしてその表が龍の巻、裏が乕の巻。
伸ばし広げた写真を見た事がなかったので光山押形の乾坤の様に二冊になっているのかと思っていて、全く知りませんでした。
長さは30メートル以上。全部広げてゆっくり見てみたいです。



さらに

駿河徳次郎さんの押形。新刀、新々刀編を調べてみました。

皆焼の肥後輝。これは見てみたいですねぇ…。戦災にあわずに残っていることを願います。

仙台初代、現在重刀指定。

康継世喜宿銘。貴重な品です。

固山。現在重刀。

徳鄰。現在重刀。

伯耆守正幸。現在重刀。

新刀・新々刀の重刀に出会う機会はそれ程多くありません。この押形集の蔵書印に記された大正元年から既に109年。現在名品とされている品は、当時も名品だったのですね。



またですが

駿河押形を少し調べてみました。

元徳元年の直次、現在特重指定。

村正と正重、現在重刀指定。

来国行、来国長、現在重刀指定。
他にも色々ありそうです。

駿河さんが「○○氏」「○○君」など当時の所持者を記していますが、刀剣界の重鎮のお名前などがあり、交友関係の広さが伺えます。



平安城安廣

脇差、銘 平安城安廣於紀州名草郡和歌山作之

53回目も紀州刀、紀州石堂の安廣です。
石堂派は近江国の発祥で、江戸、紀州、福岡(筑前)などに移住し繁栄しており、安廣も近江国より移住した一人です。
安廣は紀州の藩工として活躍していましたが正保元年に御役御免となり、門弟或いは嫡子と考えられる安定(大和守)とともに江戸に出ます。安定は江戸にて大いに活躍、安廣は京都に移り作品を残します。
安廣の活動実態や足跡は未だ不明な点も多いのですが、近年では南紀重国との関係が注目されています。
以前もブログに書きましたが、(https://kyoto-katana.com/archives/5807/)今回の安廣も茎仕立てや目釘穴の大きさ、そして脇差にも関わらず重量が760グラム以上という異様なほど頑強に造り込む点など、やはり重国との深い関係を感じます。
銘に「平安城」を冠した晩年の京都時代の作品ですが、「於紀州名草郡和歌山作之」と切っており、安廣の晩年の足跡を知るうえで大変貴重な資料です。



天狗

薙刀、銘 天狗

しばらく空いてしまいましたが、何度目ですか、52回目ですか。押形紹介です。
先日、天狗の薙刀の全身押形をとらせて頂きました。
天狗とは紀州鍛冶で、山城の鞍馬関の末説など、その発生には諸説あります。
刀(脇差、短刀や槍等含む)の作品は少なく、鏃鍛冶としての方が知られているといいますが、過去に登録審査で天狗を見た記憶があり、ごく最近も刀を一口、また 「紀州住天狗作」「天狗吉實」「藤原吉次作省天狗総領作」などの作品の存在もうかがっています。

「紀州の刀と鐔」によりますと、「銘鑑では文明ころから天狗を名乗る鍛冶が居ることになっているが、現存刀を全く見ず」としていて、「室町期の作で鍛冶銘の上に天狗と冠したものさえも未だ経眼していない」とあるのですが、上記の「紀州住天狗作」「天狗吉實」「藤原吉次作省天狗総領作」の三口は古刀との事。
そして今回の押形の薙刀も、渋めの柾目肌に棒映り風の映りが立ち、古風で明るい丁子刃を焼き、古刀期の作品と思われます。
最初に書いた通り、天狗の発生は鞍馬関との説はあるのですが、この柾目の雰囲気が入鹿と全く同じに見えますし、入鹿や末手搔或いは末保昌の流れとみるのが妥当ではないかと感じます。



謹賀新年

旧年中は大変お世話になりまして誠に有難うございました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

今年はお気に入りの目貫を使い、柄を巻き直してもらいます。まずは切羽を薄くしたいので現在切羽新調中。完成が楽しみです。