地鉄の黒味

昨日ブログで「地の黒味」について少しだが触れてしまったので補足をしておきたい。
越前や越中などの所謂北国物等の解説に「地鉄が黒い」という表現がよく使われる。
例えば誌上鑑定などは答えへと誘導するためにあえて分かりやすくお決まりのヒントを使うもので、北国物が出てくれば大体は「地鉄に黒味がある」などのヒントを入れる。
これは出題者のサービスで、その出題刀を実際手に取って見た時、必ずしも黒味があるとは限らない、くらいに思っておいてもよいのではなかろうか。

刀の色は研磨によってかなりの違いが出る。
内曇り工程の時間や引き方、砥質。地艶の時間、力、質、厚み。拭いの材料、時間と力。
これらの組み合わせは無数にあり、それぞれで仕上がりの色は異なり、白くもなれば黒くもなる。
しかし、北国物の地鉄が黒いという見方は、この研磨による黒みとは違う事を言っている。
研磨の違いに関わらず、やはり黒い鉄には黒さがあるわけだ。
しかしそれは、同条件で多数を比較した経験がなければそう簡単には見分ける事が出来ないと思う。
それぞれ違う研師が違う研ぎ方で研磨し仕上がった刀での比較は、どうしても研ぎによる色の違いに惑わされ、難しい。
”いやいや康継の刀はいつも黒いではないか”
果たしてそれは本当に鉄の色を見ての事だろうか。
研師は刀に合った研ぎをするとはよく言うが、”色”もそのように操作する事は多い。
北国物を北国物らしく研ごうとすれば、拭いはしっかり効かせ、黒味のある印象に仕上げる。康継などは普段より黒めに拭いを入れる研師も多いと思う。
因みに昨日も書いたが私は入札鑑定の時、地の黒みを入札の決め手にする事は無い。それはあまりに難し過ぎるので。入札に苦しんだ時の慰めに使うくらいか。