古い差し込み研ぎを拝見
差し込み研ぎで有名な研師が研いだ刀を拝見した。古い研ぎ。多少のヒケや曇りは有るが状態は良好。
味わい深い色になった白鞘が大変上手で、このおかげでこの良好な状態を保てているのだと思う。
直刃。総体に流れる地鉄。鎬寄りに白け映りが強く美しく現れる。
過度に匂い口を立たせたり、刃を白く上げようという意識は感じない差し込み。
直刃だからではなく、おそらく乱れ刃でもこのスタイルの研ぎをされるのだと想像する。上品な研ぎ。
刀も普通に良いのだが、何より地鉄に対する研ぎの良さで美しい仕上がりになっている。
日々色々な研ぎを見るが、ここまで自然に刀の持っている地肌を表現した研ぎは久々に見た。
表面仕上げは大変細かく、上げ艶で刀身表面を全く荒らす事なく拭いを差している。艶の質が良いのは当然だと思うが、硬さ、細かさ、厚さのコントロールが絶妙でなければこの様な質感には仕上がらない。
拭い粒子も相当細かい。最近はこんなに細かい拭いは作って居なかったが、久々に究極に細かい拭いを作りたくなってしまった。
というか、この研ぎはそもそも差し込み拭いを使っているのだろうか。鉄肌と併用なのか。段階的に。
差し込み拭いだとして何を材料にしているのか。これほど強く白けの出た地鉄を磁鉄鉱だけで斑無く絶妙な黒さに仕上げられるのか。
鎬地は薄白けた色に磨き上げる。長年の打ち粉による手入れの影響ももちろんあるが、元々これに近い色に磨き上げている。少し肌を出し気味にしているのでこの色に上げてもとっつく事は無いと思う。美しい色上がり。
この研師の備前物の研ぎも見たい。
それにしても良い白鞘。
趣味で鞘や拵えを作って居る人で、まだ本職の仕事風景を生で見た事が無い人は、必ず機会を探し本職の仕事を生で見た方がよい。
特に誰かに上手いと褒められた事がある人は、本職の鞘師の技と手際、柄巻の奥深さに驚く事になる。
例えば研ぎで言えば、趣味研ぎ歴10年を超える人が内曇りを10日間引いても、本職が2日で効かす仕事を超える事は無いのと同じ。