物打の刃先にそっと袱紗を当て、茎を耳の後ろまで上げ、棟先に目を近づけ、白熱灯の光りで透かしてみて下さい。(刃先に限らず棟や平地でもそうですが、袱紗を引っ掛けそうな小傷などに注意して下さい)
研師は棟先の鑑賞を前提に、棟先の帽子の返り部分にまでしっかりと内曇を効かせています。
硬い刀などは、棟先に内曇を当てる時には注意が必要で、強く当て過ぎると切っ先を欠く場合も有ります。
そう言う刀の時は力を掛けられませんので棟先の焼きに内曇を効かせる為に数時間を要します。
内曇工程だけでも結構な時間を掛ける訳ですから、それまでの工程も含めると棟先の研磨だけでも相当な時間を費やして居るのです。
こう言う事を知っていると鑑賞時棟先に白熱灯の光りを当てじっくりと見て、内曇が効いて居ない、棟の頂点寄りや棟角寄りに荒砥の目が残って居るなぁ・・など研師”あら”を見つけ、ほくそ笑む事もちょっとした楽しみかも・・。
姿の面でも棟先や棟区は重要です。
棟先の反りの維持や棟区の踏ん張り、こう言う部分に気を抜かないのが刀の凄いところです。
茎だけを持ってポカンと見ていたのではこう言う部分は見えてきません。
棟焼きを特長とする事でよく上げられるのが来一派です。
鑑定時どの刀工か迷う場合、棟焼きを見て”来”と入札する事も有ると思います。
本部講師も解説で、来の棟焼きは棟角では無く庵の頂点の部分に入る場合が多い事をいつも言われますが、棟焼きにもこの様に特長が出ている訳です。
また、棟焼きは単なる土落ちで、失敗の場合も有ると思われますが、意図して焼いた物も多数有ります。
色々な理由が有ると思いますが、棟焼きにより反りの調節をした物や映りを出す為に焼いた物などがそれでしょう。
研磨で棟を針で磨く時にも棟焼きには注意をはらいます。
意図しないと思われる場合は普通に磨き潰してしまいますが、意図していると判断する場合は磨き潰してしまわずに、
普通に焼き刃を鑑賞しているのと同等な光りを放ち鑑賞出来る様に、焼き部だけを潰さず全体に磨きをかけます。
これなども非常に手間が掛かるものですが、研師は皆そうしています。
(画像は棟ではなく鎬地ですが上記の例)
刀工が反りの調整や不要な棟焼きを、焼いた銅で熱して消す事はよくありますが、入念に研磨された棟を鑑賞するとその痕跡を発見する事があります。
匂い口は無くなっておりますが、黒く焼きの形が残り、微妙に凹凸が残った物がそれです。
こう言う部分を発見すると作刀の工程が思い浮かび、鑑賞にも深みが増すのではないでしょうか。
棟先の返りにもどりますが、ここにも情報があります。
例えば棟先の左右の面(表裏の面)で返りの焼きの止まり方が揃う物、揃わない物がありますが、ある講師の解説で三善長道の返りは表裏で必ず揃うと聞いた事があります。
こう言うのも鑑定のポイントですね。
返りの焼きが深い物の棟先に朽ち込みが有る場合など、荒砥で押して除去する事になりますが、棟ではなく通常の焼き刃が研ぎ減りにより、刃先から細るのではなく焼き頭部分から低くなって行くのと同じ原理で、棟の”面”の焼きが弱まり庵の頂点と棟角を残し、尖り帽子状になる事が有ります(焼き入れ当初からの場合も有りますので要注意)。
こう言う現象も、棟のうつむき気味の刀には発見出来るかも知れません。その場合、出来た当初からのうつむきではなく、研ぎでうつむいた事が分かります。
また、研師がこう言う事を書いたらダメかも知れませんが、帽子の繕いを見破る決め手となる可能性も有ります。
帽子の焼きは返りまでぴっちりと有るのに棟先を光りに透かすと焼きが全く無い・・・。
ざっと書きましたが、棟を丁寧に鑑賞するだけでも色々見えて来ます。
それが刀。