日刀保京都府支部10月入札鑑定会

日刀保京都府支部10月入札鑑定会

一号 刀

少し反り深い。総体に疲れが出ている事もあるが、かなり古い雰囲気を持つ刀。
差し表の刀身中央付近が比較的疲れが少なく、元来の匂い口が残っている。

綾小路派の典型的刃文だと思う。
この刀は度々出ている刀だと思うが、今回はようやくあまり迷わず以前見たあれだと入札出来る。
綾小路末行と入札

 

二号 刀

少し反る。身幅広めで鎬高め。中切っ先。潤いのある上質な地鉄。
小錵出来で様々な形状の刃文。特に高い刃は無く総体に揃う。帽子乱れ込先は小さく丸い。
細く鎬樋を掻く。

上質な地鉄。小錵出来の刃を見るとどうしても室町時代中期以降の作と見てしまう良くない癖があるのだが、この鎬樋には見覚えがある。
おそらく以前一度拝見した品だと思う。その前提で見ると顕著ではないが、二つ連れの刃や矢筈風が見えて来る。
信国(南北朝)と入札

 
 
三号 短刀

少しフクラ枯れ気味で鋭利な姿。素剣や梵字。小錵出来の互の目。

ここまで来ると勘が働いてしまいもう信国にしか見えない。
信国(応永)と入札。

 
 
四号 短刀

片切刃造り。典型的ザングリ肌が研ぎによりさらに強調される。匂いの密度が濃く非常に滑らかな匂い口で小湾れと互の目を焼く。

これも以前出た事がある品だと思うが、今日は特にザングって見える。それにしても堀川系、いや慶長の短刀は皆素晴らしい刃を焼く。
平安城弘幸と入札。

 
 
五号 寸延び

荒錵がある。総体に焼き高く簾刃まじり。

簾刃風だが普段よく研がせて頂く丹波とは若干違いを感じる簾。
が、丹後守兼道とも初代丹波初期とも違うと思う。
しかしここまで山城物で揃っているはずなのでこれも素直に山城に。

丹波守吉道と入札。

 




一号  刀 無銘 末行(綾小路)

二号  刀 無銘 信国(南北朝)

三号 短刀  銘 信国 応永三年八月日

四号 短刀  銘 平安城藤原弘幸(堀川)

五号 寸延  銘 丹波守吉道(大阪丹波)

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入札鑑定後、鑑賞刀を拝見。

太刀 銘 来国俊
 刀 銘 千手院(美濃千手院)

来国俊は生茎在銘の品。銘は大変鮮明で茎反りが強く、茎の反り伏せをされていない。
図譜では華表反りとなっているが、茎の美しい反りも含め全体を拝見すると優美な腰反りに見える。下地研磨も大変美しく気品がある御太刀。
美濃千手院は「千手院」と在銘で稀少な品。鑢も片筋違の掟通りで、刃文は大和本国、特にやはり千手院派を思わせる出来。
度々拝見する美濃千手院極めの品は大和本国を思わせる品を見た記憶は無いがこの刀は大和の風情を残していると思う。



京のかたな 展示№168

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展示№168
刀(金象嵌銘)永禄三年五月十九日義元討捕刻彼所持刀
織田尾張守信長

重要文化財に指定されている名物義元左文字(宗三左文字)です。
明暦の大火で被災しその後、越前康継の手により再刃されたものですが、これ程の由緒伝来を持つ刀はそう多くはありません。

押形採拓時、金象嵌が残る部分は筆で文字入れをし、「刀」「信長」「九日」など、金が剥落した文字は石華墨で摺り出すつもりで臨みました。
しかし現物を確認したところ、火災によりかなりの高温で焼けたと思われ、茎全体に火肌が現れていました。
金が抜けた文字の多くは剥落ではなく、火災の熱が金の融解温度に達し金が流れ落ちた状態です。
「禄三年五月」などの文字も金象嵌銘として読む事は可能ですが、実際は金がかなり流れ落ち、象嵌銘の底にだけ金が残る状態となっています。
この様な事から、金が残る文字、残らない文字の全てを筆で文字入れし押形を完成させました。

光徳刀絵図や継平押形では棟を丸棟としています。
しかし、かなり丸くなってしまっていますが棟先に、真の棟(三つ棟)の痕跡が確認出来ました。
(例えば海部刀などの丸棟は、丸のまま先に抜ける物が多いものですが、通常の太刀や刀の丸棟は棟先だけ庵棟として処理されています)
棟全体を見ても、これは研師にしか分かり難い事かも知れませんが、元は真の棟(三つ棟)であった可能性を強く感じました。
火災で刀身全体から被膜が著しく剥がれ落ちた場合、形状を大きく崩す事があります。
この義元左文字は本能寺の変で焼けた説と焼けずに持ち出された説があるようですが、光徳刀絵図の時点で既に丸棟とされている所に答えがありそうです。

再刃された刀には、地刃の品位を落とした物を多く見ます。
この義元左文字は地刃ともに大変良い状態を保っており、この事から左文字の作刀技術の高さ、再刃した康継などの技量の高さがうかがえます。



京のかたな 展示№191

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展示№190、191は京のかたな展の後期展示となりますが千種有功の作品です。
有功の作は短い物が殆どでその多くは茎に銘が無く、「やきたちは さやにをさめてますらをの こころますますとくへかりけり 正三位有功造並詠」と刀身銘の入った脇差です。
慰み打ちとはいいますがこの手の脇差は現在でも頻繁に目にする事から、かなりの数が造らたれようです。
これらの品は造り込みに力なく出来も平凡であり、数打物に類する品と考えられています。
一方茎に銘のあるものが稀にあり、これらは注文打などの入念作と思われます。
展示№190は「正三位有功作 癸丑秋五十之内」と茎に銘のある脇差、№191は刀身銘に加え「寅二月有文有任奉相槌 為法住大徳作之」と茎銘のある太刀です。
有功に長寸の作品は大変珍しく、また息子の有文そして孫の有任の三者による合作銘、そして京都国立博物館のすぐ南に位置する法住寺住職の為銘がある事も注目されます。
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『もっと知りたい 刀剣 名刀・刀装具・刀剣書』(内藤直子 監修・著/吉原弘道 著)

楽しみにしていた本が出版されました。
『もっと知りたい 刀剣 名刀・刀装具・刀剣書』(内藤直子 : 監修・著 / 吉原弘道 : 著)

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ここ数年、本当に沢山の刀関連書籍が出版されました。
研ぎ場の書棚にある刀剣古書とそれらは、書いてある事は同じでも、言葉の重みが違う物も多くありました。
もちろんあえて重くなり過ぎない様にしてはいるのでしょうが、なるほどそうなのですね。
この本のように過去に無い視点でこんな説き方が出来るのは、そういう事ですか。。この本の前書きで納得です。
そう思えば研師も色々違いはありますが近いといえます。実際様々な刀剣に触れ、そして砥石を当てているのですから。
研師の視点というものに自信を持つ事にします。

厚い本ではないですが、楽しくそして正しく学べる本です!
http://www.tokyo-bijutsu.co.jp/?act=book&op=detail&bid=381



京のかたな 展示№193

展示№193 短刀 銘 大阪住高橋晴雲子信秀七十五歳作
           於京都帝国大学鍛之 大正六年十二月吉日

刀は時代が古いほど軟らかく、新しいほど硬い傾向にあります。
しかしあくまでその傾向にあるというだけで、全てがそうではありません。硬い古刀もありますし軟らかい現代刀も多数あります。

”錵物は折れる”という話を聞く事はありますが実際どうなのでしょうか。私は切った事がないので分かりませんが、そう単純では無いと思っています。
「脆い=折れる」は正しいですが「硬い=折れる」は言葉足らずですし、「錵出来=硬い」は必ずしも正しいとはいえません。
過去に研磨させて頂いた特に硬い刀を複数あげたなら、その多くが匂い出来或いは小錵出来の刀です。
それらは硬過ぎて研磨に大変苦労しましたが、研磨中の刃こぼれの心配などは全くなく、硬さと同時に大変粘りのある鉄質でした。
これは研磨した時の所謂”砥当たり”による硬軟の判定なのですが、この砥当たり判定も砥石の粒度や質により様々で、例えば金剛砥で硬く苦労をしても内曇りの効きは早い刀、またその逆もありこれまた単純ではないのです。

さて展示№193、高橋長信が京都帝大で鍛えた刀、匂い主体の互の目に所々小錵の錵筋が走ります。
図録解説中に「日本刀にあるまじき高硬度で製作されていることが判明した」とある通り、強烈な硬さでした。
京都帝大内で日本刀に関する様々な実験を行うなか製作されたと考えられ、大変興味深い作品です。



第6回 みやこ刀剣祭り

第6回みやこ刀剣祭りが開催されます!

会期 11月3日(土)10:00~17:00

11月4日(日) 9:00~16:00

入場無料

場所 京都市勧業館(みやこめっせ)

https://www.miyakomesse.jp/



本能寺刀剣展2018秋

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「本能寺刀剣展 2018秋」

本能寺刀剣展の第二弾が開催中です。
 
開催日程
平成30年9月29日(土)~12月23日(日)
会場
本能寺大賓殿宝物館( 京都府京都市中京区 寺町通御池下る下本能寺前町522)
開館時間
午前9時~午後5時(入場は午後4時30分まで)
電話番号
075-231-5335
入場料(大賓殿宝物館)
一般 500円 / ホテル本能寺利用者 300円 / 中・高校生 300円 / 小学生 250円 / 修学旅行生 200円 / 身障者 200円 ※30名以上は団体割引あり

 詳しくは本能寺ホームページをご覧ください。
http://www.kyoto-honnouji.jp/news/



京のかたな 展示№192

展示№192 脇差 銘(忠以花押)

姫路藩の酒井家二代藩主、酒井忠以(ただざね)の作です。
昭和45年の刀剣美術誌第164号によると、酒井家では忠恭、忠以、忠実、忠学、忠顕など歴代藩主が作刀を行った記録があるそうで、展示の脇差もその一つです。
この様に、皇族、公家、武将など刀工ではない人が打った刀を慰打ちといい、少なからず存在します。慰打ちの刀はおそらく殆どの工程を相手をつとめる刀工が行っていると考えられますが、中には展示№190,191の有功の様に作刀数などからも慰打ちの範疇を超えるような人もいます。

京のかたな図録の忠以刀解説中、後に琳派の絵師として活躍した弟の酒井忠因(抱一)も忠以とともに作刀を行った事が玄武日記に記載されており、昭和四十年代までは個人の愛刀家の手にあったことが確認されている旨記されていますが、現在その行方は分かっていません。
この貴重な酒井抱一の刀は刀美164号及び鑑刀日々抄(続)に部分押形があります。
刃長二尺三寸一分、反り九分、目釘穴二。
太刀銘で「於姫路忠因作之 天明二年二月日」と太鏨の草書銘。
平造りの越中守藤原貞幸の脇差と大小で紀州家伝来という事です。
この貴重な抱一の刀、今はどこにあるのでしょうか。

 



京のかたな 展示№26

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展示№26 太刀 銘 (菊紋) 一

少し肌立つも細かく地錵の付く大変上質な地鉄。区上を焼き落とし水影状に映り立ち、腰刃を見せ、その上は総体に低く焼き、刃中は金筋等豊富に働く。
焼き落とし水影風を見せる菊御作の特徴に、腰刃を焼く古一文字の作風を合わせ持つ、即ち菊御作でいう、粟田口、古青江、古一文字の3タイプ中、古一文字タイプという事になります。

本太刀は重要美術品に認定されており、重美全集では「太刀 銘 一」と表記され、鎺下に菊紋があるも解説ではそれについてふれていません。(認定時の写真に菊紋は写っていますので、後に入れた様なものではありません)
また本太刀は菊御作として協会の特別重要刀剣にも指定されています。
展示№22,23,24,25に見るように、通常の菊御作は菊紋のみを切り刀身自体は無銘です。
本太刀を菊御作とするならば菊紋に一の字を添えた他に類例を見ない貴重な資料という事になります。

「一」の銘は様々あり、この一文字にみるように斜めに切り下ろすものを斜一文字(はすいちもんじ)と呼びます。
この斜に切られた一の字は、はたして文字なのか、それとも符牒なのか未だ不明です。
しかし一の銘の中では一番古い手の物と考えられており、他には尚宗、則宗の在銘の品に斜一文字を切り付けた例があります(いずれも佩裏)。

 



京のかたな 展示№174

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展示№174 太刀 銘(菊紋)山城守藤原国清 寛永十年二月日

京都市東山区にある新日吉神宮(いまひえじんぐう)所蔵の御刀です。

国清は山城新刀の堀川国広門で後に越前に移住しています。
この御刀は押形にみるとおり、一般的な新刀と比べ大変反りが深く、九分六厘の反りです。
新刀の中では「美しい反り姿」といわれる事の多い肥前刀でさえ、平均六分程度の反りですので、この九分六厘の反りがいかに深いかが分かります。
国清は直刃を最も得意とし、本作も匂深の中直刃を焼いています。
区際に水影風の焼き出し映りを見せるなど堀川派らしさもありますが、地鉄は完全に越前風であり、反り姿と合わせ古風な出来となっています。
その事からか、以前京都支部の入札鑑定会に使用させて頂いた時は多くの札が古刀へと入れられました。
国清の作品は比較的多く残されてはおりますが年紀作は稀有であり、奉納品としての特異な姿と合わせ貴重な作品です。