久々に

昨日の刀の全身押形は完成。別で数日間進めていた全身は久々に失敗し、ゼロからやり直しです。
数年に一度、どうにもならなくなってやり直す事が。
10枚全部濃い画風で揃えようと思っていたのですが、やはり心配していた通りダメでした。
薄めで濃淡の少ないものにします。何日か頑張ったので痛い。





重りを減らす

押形の事ばかりですが・・・。
先日のブログに書いた10枚とは別ですが、全身押形を重りを減らして採拓。
近年、下の画像の様に多数の重りを使って採拓していましたが、それが良いと思っていたわけではなく、あくまで”流れ”でやっていただけで、むしろよろしくないと思いつつ。(長大な長刀で重りを沢山作ったので、ついつい流れで使っていたのでした)

ということで、鎌倉時代最末期乃至南北朝時代前期の無銘刀(在銘無しの刀工)を重りを減らし採拓。

無銘で反り浅なので問題なく採拓。今後は減らせる場合深反りや在銘でも減らすと思います。

押形は研磨後の作業です。研師が本業です。



濃く描く

訳あって10枚制作する事になった全身押形ですが、今回はかなり濃く描きます。
ただこの後の2枚がこの濃さだとどうなるか不明の作風で。
本来、明るい刃は濃く描き沈む刃は薄く描くのが正しいのでしょうが、そればかりでもないのが押形だと思っていて。古名刀は明るい刃でもあまり濃く描くと品位を描き出せない気が。



支部入札鑑定

今回は当番で判者と解説でした。

1号 太刀  銘 清綱(重要刀剣)
2号 短刀 無銘 行光(重要刀剣)
3号  刀  銘 肥前佐賀住国広
4号  刀  銘 正利(坂倉関)
5号  刀 無銘 延寿(重要刀剣)

1号清綱太刀

2号行光短刀

3号肥前国広刀

4号正利刀

5号延寿刀

1号清綱は柾気ゼロの精良な地鉄に鎌倉末期長船調の明るい刃を焼いていて超絶難問です。
重美で柾気のある清綱太刀が本部鑑定に過去3回以上使用されています。その太刀は刀美の本部鑑定講評で「非常に難しい」と解説されていますが、今回の清綱の難易度はそれを上回ると思われます。(刀美116,209,221号)
まず長船と見て「通り」、青江でも「通り」、古三原か国分寺助国でアウトという流れを想定しての出題でした。自分が参加者側だったらと考えると恐ろし太刀です。。
2号行光は最上クラスの地鉄。正宗の極めが来てもよいのではないかと思える名品です。
3号肥前国広は、忠吉本家に生涯をささげた刀工。自身銘がほぼ残らず、現存数の少ない人です。強く抜群の地鉄。
4号正利は鑑定刀に使用される事は少ないかもしれません。村正との関係が深かったといわれる刀工で、今回の刀も初代村正に似ます。
5号延寿は先日のブログの通り今回も直ぐに小丸、先掃きかけてかえる帽子です。

延寿の帽子(1) | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区
延寿の帽子(2) | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区

少し前の鑑定会から、会場後方でホワイトボードを使用して初心者さん向けに刀の鑑賞ポイントなどをお伝えしています。
入札鑑定のヒントもですが、特に刀の鑑賞ポイントをお伝えする事がメインです。
ただ私も答えを知らずに書いていますので、道連れで爆〇する可能性も。。(今回は判者でしたので札が入るまでの間に簡単な図などを)
答えに直接つながらない様な伝え方って意外に難しいのですが、何も無しで見て頂くのはやはり不親切過ぎですし、何か手立てが必要ですね。





「錵の宙 刀鍛冶 晶平の世界」

あべのハルカス近鉄本店11階、美術画廊にて川﨑晶平刀匠の個展「錵の宙 刀鍛冶 晶平の世界」が開催されます。

・会期 令和7年5月14(水)〜20日(火)
・ギャラリートーク 5月17、18日 午後1時~

あべのハルカス近鉄本店 | 特集:その他 | 刀鍛冶 晶平の世界 “錵の宙” [5月14日(水)から]


私は刀は手に取らないと分からないタイプで、毎年の様に展覧会でトップをとる川﨑さんの刀が何故そんなに凄いのかが分からないで居ました。
もう十数年ほど前でしょうか、どうしても手に取って見てみたく埼玉県の晶平鍛刀場にお邪魔して拝見する事に。
「そりゃトップだわ」と感動して帰った事をよく覚えています。

SNSなどに、地鉄も刃文も不鮮明で何の情報も入っていない誰かの刀の写真が上がり、それに対し「美しい!」「地刃が冴えています!」など絶賛コメントが付く場面をよく目にします。時には鞘下地(名倉程度の研磨状態)の写真にその様なコメントが付く事も。。
そういう方が多いのが現実だとは思いますが、その様をみて「自分にはこの写真の何が美しいのか分からない」「冴えってなに?」と感じている方もいるはずです。そんな方がもしもおられたら、是非「錵の宙 刀鍛冶 晶平の世界」に行ってください。刀の冴えが理解できると思います。




無題

市役所前に用事で行ったのでちょこっと本能寺さんにお邪魔して、押形を見て来ました。
やはり私は押形が大分好きで。普段押形を複数並べて見る事もないですし、十数枚が整然と並ぶ様は「綺麗やなぁ・・」と、ずっと見ていられます。
自分で描いた押形をそんな風に思えるなんてかなり滑稽ではありますが、誰が描いたとかそういう事は考えず、純粋に全身押形を楽しむ視点で。
同程度の押形好きに出会う事は稀ですが、多分古押形を描いた人達は同じ様に好きだったのではないか、そんな想像をするわけです。

それぞれの押形にはこだわりポイントがあったりします。
展示押形の一つ、「短刀 朱銘 則国 本阿(花押)(粟田口)」。
この短刀は以前研磨させて頂いたものですが、研磨前、鞘から抜いた瞬間感じられた格調の高さをよく覚えています。
地刃を鑑賞するまでもなく感じられるあの感覚、そうあるものではありません。
その原因が造り込みにあるのか、以前の研磨の面や線にあるのか、それプラス地刃の出来か、まぁその全てだとは思いますが。
それを押形にあらわせないかと考え、普段通り全身の輪郭線や刳物の線を引いた後、カーブ定規やテンプレ定規を使用し、細く削った油性色鉛筆で全ての線を強調する作業を行っています。石華墨で引いた線は子細に見ると線ではなく点の連続になってしまっています。それが嫌で普段から石華墨で線を引く事は無いのですが、それだけでは粟田口の凛とした線が出ない気がして。(石華墨の”線ではない線”を抑える方法を近藤先生に教わったのですが、それがあまりに難しく挫折、今の技法に至っています)



太刀など

新刀丁子全身押形を採拓。

濃くせずしゃりりと描くとそれなりに早く描けるので刃文は表裏を丸1日で完成。(茎と全身輪郭は前夜)
この速度で採拓出来れば出先で一文字等でもなんとか。

研ぎ場にて鎌倉末期生ぶ茎太刀を2口拝見。一つは茎尻まで完存。茎中程から尻への反りや張りなど、パワーを感じる。
鎺下の重ねと鎺上の重ねがほぼ変わらないのは奇跡です。銘も鮮明。
この造り込みと刃には覚えがあり、しばらく前に多数下地をした。

鎌倉末期相伝短刀研磨。良い地鉄。古い刀でも肌を抑えない方がよい事もある。

肥前刀研磨。肥前刀は沢山研がせて頂いたが、今までの肥前刀研磨中一番肌を立ててみた。

生ぶ茎太刀、延文年紀書き下し銘の錆身が出て来た。眠ってますねぇ。



4月支部鑑定

今回は熊谷和平先生。
全部鎬造脇差6口。

1号 脇差
1尺7寸程度か。反り尋常。新刀互の目乱れ。半丸形。腰開かずリズムあり。地鉄少々弱め。直ぐに小丸。微妙に固く止まる。

分からんので津田助広初期銘と入札。

2号 脇差
同寸程度。反り深く中鋒延びる。足長丁子に直ぐ帽子。

典型的肥前の足長丁子だが、非常によく出来た刃で、丁子の各所を切り取って見ると古作に迫る良さがあり。
肥前に入れる事を躊躇してしまい忠綱の可能性を探ってしまう。そういう目で見ると砂流し風の箇所が見えて来た。
粟田口忠綱と入札。

3号 脇差
同寸程度。重ね厚く身幅もしっかりと有り、刃三つ角が張る。強く冴える地鉄に小錵深く直ぐ調の互の目。鋒詰まり気味で帽子先深く丸。

非常に良い江戸脇差。法成寺正弘と入札。

4号 脇差
同寸程度。横手下から少し身幅を狭め他の品とは違う姿。互の目で中程は上下二段になり上段は沸える。物打上二つ連れ。
横手付近焼き込み帽子少し深めで返り錵付き止まり太い。鎺上丸止め棒樋。鎺上の肌が少々荒い。

全く分からず。返りから三善長道と入札。

5号 脇差
同寸程度。直刃。匂い口帯状、2ヶ所にピョコ刃があり肥前の直刃。帽子焼き詰め風。

普通に見れば完全に肥前刀ですが。。悪い癖が出てしまい別の刀に見たくなる。
入鹿の事など | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区
このブログの通り。文珠金助重国と入札。

6号 脇差
同寸程度か。大乱れの肥前。(互の目の丸味やアブの目・谷に沸えこごり)

いつもの通り正広・行広の違い分からず。肥前正広と入札。

否にて候
否にて候
当たりにて候
否にて候
否にて候
同然にて候

なんだか全部悪い方に転がしてしまった。
1号三善長道、2号近江大掾忠広、5号武蔵大掾忠広に。
4号相変わらず分からず陸奥守包保に。

当たりにて候
当たりにて候
当たりにて候
否にて候
同然にて候
同然にて候

4号は江戸のようですが・・・。そういえばこの人はニコイチ刃だったか。上総介兼重と入札。

当たりにて候
当たりにて候
当たりにて候
同然にて候
同然にて候
同然にて候

1号 脇差 陸奥大掾三善長道
2号 脇差 近江大掾藤原忠広
3号 脇差 近江守法成寺橘正弘
4号 脇差 長曽祢興里入道乕徹
5号 脇差 肥前国陸奥守忠吉
6号 脇差 近江大掾藤原忠広

4号は乕徹か。。全く思いついていなかった。鎺上の荒い肌に気付いていながら。。
後で見ると帽子は激しいながらも完全に虎徹帽子。
で気付いたのだが、虎徹は他の脇差とは造り込みに明らかな違いがあるのかも。今度からそこに注目。
6号は近江大掾。この出来の近江大掾もあるにはあるが、そう多くはなく大変面白い。
名品が多数並ぶ鑑定会ももちろん勉強になり楽しめるが、今回の様にテーマを明確に絞った刀の選定が成された入札鑑定は一生の宝です。




「工人の軌跡」写真展

いつも写真を撮っていただいている、写真家の長谷川佳江さんの写真展が開催されます。
毎度毎度、動きも単調で同じ作業にしか見えないでしょうし、申し訳ないなぁと思いつつ。。
それでも我々職人の一瞬を写し出し、形にしてくださっています。

 場所:兵庫県立美術館 王子分館
    原田の森ギャラリー東館2階
 時期:2025年5月21(水)~ 25(日)
 時間:11:00~18:00
    (最終入場17:30)
    最終日~16:00(最終15:30)
 入場料無料

202505 – 原田の森ギャラリー
長谷川佳江(はせがわよしえ)/モノクロ写真家/カメラマン 神戸市からの出張撮影・写真集販売
長谷川佳江(@morethanvisible) • Instagram写真と動画



大磨上げ無銘の全身押形をとる

鎌倉時代末期の大磨上げ無銘刀。
無銘ですが、適度な硬さの石華墨で鑢目をなるべく潰さぬよう、朽ち込みを埋め過ぎぬよう、時間をかけて丁寧に擦りだします。
しっかりと時間をかける事で紙に墨がたっぷりとのり、深い黒味と艶が生まれます。
銘や鑢目を潰すことなく紙に墨がしっかりのった押形は、鉄味絶妙な茎を見る様な錯覚に至ります。

錆が盛り上がった部分には石華墨を意識して逃さず当て、強い黒味を出します。
錆の盛り上がりの根本までは責め過ぎず少し白さを残す事により立体感が各段に上がります。
以前は鎬筋への意識が完全に抜け落ちていましたが、近藤先生のご指摘をいただいて以来、鎬筋を擦りだすよう心掛けています。
また茎全体をしっかり擦りだしたつもりでも、意識が行き届いていなければ実は目釘穴が明瞭に出ません。
目釘穴を美しく擦りだす作業も必要です。