剣相の疵

先日買った「刀剣史料(昭和34年)」をパラパラと読む。
「通俗刀の話 ~意外な武士の迷信~」という記事がありました。
この手の話にはあまり興味がわかずいつもならスルーする所ですが、「相剣書の内容」の文字が目を引きました。
ちょうど「KATANA」の第7巻、「剣相の疵」を読んだ直後だったので。(第27話「剣相の疵」剣相をする若い研師のお話)

”剣相”とは刀の長さ、地肌、刃文の形、疵の位置などによって吉凶を占う事だそうです。
日本刀大百科事典によると、剣相は古刀期から既にあり、江戸中期頃には大流行し江戸の後期にまで及んでいるそうです。
私、研師をやっていながら”剣相”というものがある事をほぼ知らないでおりました。
「刀剣史料」の中で紹介されているものは・・・「鐔際の鎬筋上に疵があれば思いもよらぬ損失をする相があり、如何なる幸運の人なりとも此の刀を帯刀する時は忽ち悪運となり身体を亡すに至る、殊に難病身から離れず、五体の内にいつも痛みのある相である。但し腫物または瘡毒が腰より下に発する事があれば、きまってその痕が終身の疵となる」。
他には「帽子の長き返りの傍に三日月形のあるものは、その人何事によらず心に決する能わず、且つ金色によって二心を生じ不義悪心を生す。なお激しきに至っては焼刃の鐔元まで深く入ったのは女難の相あり。更にその傍に玉焼きのあるは婦女姦淫の相あり」と。

また、剣尺と言う物差しがあり、それを区切って財・病・離・義・官・刧・害・吉など吉凶を占う文字を割り当てる。
それを刀身に当て、疵の部分に合う文字から運勢を判断するそうで・・。(日本刀大百科事典に「剣相の内容は極めて幼稚かつ不合理なものである」とあります通り、実際お持ちの御刀に悪い相が出ていても、あまり気にし過ぎるのはよくないと思います(笑))
この剣相術の流派はかなりの数にのぼり大流行。その波は武士から町人、朝廷にまで及んだそうです。

なんですかこれは! こんなのがそんなに流行っていたのですか。
こんなのがそんなに流行っていたならば、KATANAに出て来る「あらゆる剣相占いを取り入れて大吉相の寸法、刃文を指定して刀鍛冶に作らせたベスト・オブ・ハッピーラッキースウォード!!」と言う物も実際に存在したんじゃないでしょうか?!
日本刀大百科事典にも江戸下谷の国吉の銘に「相剣造」の添え銘、また横山加賀介祐永、天保十五年八月日の作に「亀田氏応需吉剣相作之」の銘が有る事を紹介しています。
研ぎをやっていると、異様な造り込みや不自然な刃文の刀、銘文などに意味の分からない文言や切り付けのある刀にはまま出会います。
それらには”剣相”が関係する品があったかも知れません。
特に京、大坂で流行ったそうなので、そう言うのが得意な三品系などにはあるんじゃないかなぁ。変わった刀ありますよねぇ、三品系の代の下がる刀には特に。



また天然砥石を試す

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また刀剣の研磨には一般的ではない天然砥を試す。
違うと思いつつもずっと既存の考えにとらわれて居たようです。
とらわれて居る事は分かって居て、既に抜けたと思っていたのですが、実はまだ抜けられていなかった。
今日は本当に分かったんだと思います。
これからスタートだと言う気持ちが強く起こったので。

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刀剣関連古書購入。
最近身近で話題になった郷土刀が載っていてよろんだ。
非常に珍しい品なのだが、当時からやはり珍品として扱われていた事が分かった。
美濃刀大鑑も購入。大鑑物は康継か國廣大鑑以来で久々です。
昔は持っていたのですが今はなく、揃えておきたかったので。
こうして大鑑になるとしっかり掘り下げられ、美濃物の奥深さが分かります。
尤も美濃物の刀剣史は大鑑一冊で済むような物ではありませんが。



天然砥石を試す

またですがすみませんな。興味ない人が殆どだと思います。
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しかし大切な事なんですよ。
良い仕事には良い砥石が必要なんです。
近年良質な天然砥に出会える機会は減っています。
値段も上がっていると感じる事も増えました。
趣味の研ぎをされる方の影響もあるようです。
我々職人は年間結構な数の天然砥を使いきります。
しかし趣味の方は一本を一生掛けて使います。
一本10万、20万、30万でも買ってしまう人は買ってしまいます。
私には手が出ません。
なんですかこの構造は。

さて今日は大平の戸前。
地艶は中山の戸前と誰が決めたのでしょう。
誰も決めていません。
引くのは内曇と言ったのは? そう習ったからそうしている。
と言う事で大平戸前を引く。



刃取りのこと

刃取りは、色、深さ、ぼかし具合、形(かたち)などについて、研師や刃艶の個性が出やすい。
色やぼかし具合などは刃艶の質の影響が出やすく、目標点さえ正しければ良質な刃艶の使用でそこに辿り着く事が出来る。
しかし「形」に関しては研師それぞれが持っているセンスの枠を超える事はなかなか困難である。
研師は皆、様々なパターンの刃取りをイメージ出来、それを形に表す事が出来るはずで私も同じだが、時に自分の中には無いパターンに刃取られた刀に出会う事がある。
先日、とある脇指の横手下、3cmほどの間だが私の中には無いパターンに刃取られていた。
目に焼き付けようにも感度が低くすぐに忘れてしまうので携帯写真を撮らせてもらった。
何故?と問われ説明したが、なんとその部分だけ訳有って棟からではなく、刃から刃取ったと言う。

刃取りには、棟から取る方法と刃から取る方法がある。
どちらが良いと言う事は無く、流派や得手不得手、また個々の考えの違いでどちらかを行う。
刃から取る方も刃文によっては棟からも行う人もあると聞くが、棟からが基本の人は全てを棟から行う人の方が多数派だと思う。
私も特殊な物や特に理由の有る場合以外は棟から刃取る。

今回の脇指も棟から刃取る人の刃取りだが、その部分、刃から刃取った事により、枠を超えた訳である(本人はまだ研磨歴が短いため気が付かなかったようだ)。
正直今まで考えた事が無かった。
さてまた大変だ。 枠超えは簡単ではない。