鐔を買った

先日の記事で寛正の両刃短刀の事を少し書いたが、さらに数年古い年紀の品が存在するという事をお教え頂いた。
それは然る名家に伝わる品で未鑑定ではとの事で真贋は不明。 しかし世に出ていない楽しみな品は沢山ある。

どなたの本か忘れてしまったが、武士の数などから換算し、刀は500万振り程度あるのではないかと言う話であった(諸説あるようだが)。
現在登録されている刀は300万振り程度だが、500万振りが本当ならば、大戦で多くを失したとはいえまだかなりの数が眠って居るはずである。
こういう事を書くから掘り出し物を期待して失敗する人が出るのかな・・・。

ネットで鐔を買った。
高いと思いつつも、これを逃すと一生出合えないかも・・などと在り来たりな衝動に負け落札してしまった。
小道具は現物と画像では色が全く違う事が多く相当注意が必要だと言う事も、深夜の入札は危険と言う事も分かっては居る。
ここまで書くと落ちが見えるところだが、実は届いた鐔は非常に良い品だった。
私の好みの中の現在のところの最上級。
こういう事を書くから掘り出し物を期待して失敗する人が出るのか。



刀剣入札鑑定会

ここのところ支部に若い方が来てくれる様になり、活気があり非常に嬉しい。
皆さん本当に真摯に勉強されています。

 

一号 太刀

輪反り。平肉付くも重ね薄めで軽い。棒樋。小さめな切っ先。定寸ほどか。備前物。小詰む刃。南北よりは時代が上がらない刃が腰に。

小反りです。
全体に頭が低いので師光と入札。

 

二号 刀

中の反り。身幅しっかりとし、重ね少し厚め。手持ち重い。詰み流れる肌。鎬寄りによく映る。匂い口絞まる直の刃だが、逆足とも逆調の互の目とも取れる刃が全体に。法華の様な帽子。

さて難しいのが来ました。過去に無銘でこの手の刃を見た事があるが極めを知らず。青江や元重とは格が違う。これは無理だ・・・。
海部氏吉と入札。

三号 短刀

反る。重ね薄い(ハバキにかなりすき間が有るので減りだと思う)。小さく、それほど詰めない互の目。倒れる帽子。疲れ映りが全体に出てフクラに元の地鉄が残る。裏櫃中に孕み龍。

上身の反りとフクラのラインが良く、振袖風で茎尻の浅い栗尻が眉間の先に浮かんだ。彫りもかなり減っては居るが茎を含めた刀身全体に非常に合った南北の物だと思う。

備前に行きたいが帽子を取ってこちらに。
直江兼友と入札。

 

四号 短刀

両刃。小さい。周波数は低いが綾杉風。ねっとり映る。直刃。

これは他国ではなく素直に古手の両刃だと思う。
勝光と入札。

五号 短刀

表菖蒲、裏平。なにやら彫りの跡が有るがよく分からない。刃文は互の目の間に錵が凝る藤原高田。

二号に続きこれも難しい・・・。裏の平ら加減が海部の平面を連想させる。
海部氏吉と入札。

国入り
イヤ
イヤ
国入り
イヤ

困った。

一号 一の札以外は思い浮かばず。 吉岡一文字と入札。
二号 打つ手無し。地鉄の雰囲気で。国分寺助國と入札。
三号 こちらに。         小反り成家と入札。
四号 ちょっと厳しいなと思いつつ、忠光と入札。
五号 分からない時の避難港。   冬廣と入札。

国入り
イヤ
同然
同然
イヤ

一号 畠田真守と入札
二号 東海道と教えてもらう。 相州綱広と入札。
五号 大和系だと教えてもらう。二王清貞と入札。

国入り
同然
同然
同然
通り

一号 太刀   備州長船吉次 永徳三年十一月日(小反り)
二号 刀    次廣
三号 短刀   備州長船貞末
四号 両刃短刀 備州長船盛重 寛正二年八月日
五号 短刀   正清(三原)

二号は後で気付いたが、過去に出た刀だった。その時も非常に悩んでいて、進歩して居ない事が分かった・・。
過去記事(一号刀)
三号貞末は昔、盛景・兼光風の姿の大平身を研磨した事が有るがそれと同種の銘だった。

四号両刃。寛正に両刃って。これは強烈に凄い資料じゃないのか。
両刃の時代上限に関する新発見の記事を何かで見た気もするのでとりあえず刀美を漁ったが力尽き、諦めた。最新号までの合本が有ったら幸せ至極。 過去に両刃の上限とされている時代を把握していないが20年ばかし上がるのではなかろうか。

今日の刀は私には難しい出題で大変なカロリーを消費した。
今日初めて来られた20代前半の若者の札を見せて頂いた。
札のあまりの筋の良さに本当に驚いた。 成川滉みたいな人は本当に居るのですね。
当然点数も負けました。

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信濃へ

水の流れに花びらを
そっと浮かべて泣いた人
忘れな草にかえらぬ恋を
想い出させる信濃の旅よ

残念ながら教養の披露じゃぁありません、五木ひろしの千曲川。 いい歌です。
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まだ満開の木が多くありましたが葉桜が好きなので。
この辺りの軒裏は丁寧ですね。風土からですか。

 



諸々

日々研磨。

今日は少し別の作業も。
茎が短く先へ重心が寄り過ぎる時、通常は鐔等で調整するが、茎尻に重りを入れて調整する事がある。
重り作成の依頼があり、残欠刀の茎を使用する。
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糸鋸で切る。
磨上げ茎でこの切断部の焼きは戻されていると考えていたが焼き戻されておらず、ここから先糸鋸が滑り進まず。
とは言え簡単に折れるわけだが。 ダイヤ鑢の無い時代、焼き戻さずにどうやって削ったのか。砥石しかないか。
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かっこいい重りが出来た。
柄に埋め込まれ誰の目にも触れない存在となる。

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川原で拾った石コロをカクカクに削りたいらしい。
普段は完全入室禁止だが特別に許可する。