試す

古研ぎで数か所に深い錆が出ているが、全体には研ぎ上がりが維持されており、そして大変良い差し込み研ぎ。
この様な状態の場合、即錆び切りをしてしまうのはもったいなく、寸刻みに仕上げ方法を試す。
昔の上手な差し込みでも下地研ぎは至って雑。この様な例は多い。
因みにいつ頃の研ぎかは不明。おそらくこれを見る人の多くは幕末か明治の研ぎではないかと言いそうだが、やはり不明だと思う。
刃文は石堂そのもので、銘は正清。
どうやら銘鑑漏れの様だが、古い刀剣美術を調べると記載があり、寛文頃、岡山城下で作刀した岡山の郷土刀的存在であることが分かった。

先ほど書いた様に刃文は石堂そのもので乱れ映りもよく出ている。
この映りの出方はおそらく裸焼きではないかと感じる。
各種差し込み研ぎで20手ほど試したが結局元の古研ぎと同じ状態にもどせた場所は無し。
古研ぎ箇所は長年の打ち粉による手入れなどにより大変味わい深い状態となり、これを新しい研ぎで再現する事は非常に難しい。
継ぎ研ぎで古研ぎに合わせる事は日々頻繁に行っているわけだが、その場合部分研磨を行った箇所が綺麗に見え過ぎないように古研ぎに合わせ汚しを行う。
継ぎ研ぎで古研ぎに合わせる事と全体を美しく研ぎ上げ古研ぎの味わいを出す事では難易度が全く異なる。
全面に打ち粉ヒケが付いた様な状態でよいのなら再現も簡単かもしれないが、そうもゆかず。。

その後錆び切り。
見た目は石堂だが砥当たりは全く違い、恐ろしく硬かった。
これは内曇りに時間がかかる。



カマス鋒

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押形の鋒は若干のフクラが付き完全なカマス鋒とはなっておらず、”フクラ枯れカマス鋒風となる”と表現される状態でしょうか。
この押形の刀は実物を見るとカマス感が一段と強いのですが、押形にした時の横手位置がコンマ数ミリ低過ぎたか、それとも小鎬先の留め位置が微妙に低かったためか、或いは鎬がかなり高い造り込みで身幅が押形と現物で微妙に違うためか、またフクラのラインも微妙に違うのか、カマス感が少々薄れた押形になっています。

鋒の整形とは非常に難しいもので、「髪の毛一本で大きく変わる」という言われ方をする事がありますが、それは大袈裟ではありません。

猪首鋒やカマス鋒は文字としてはよく見かける物ですが、実際その様な鋒の太刀を研ぐ機会はめったにありません。



鍋島景光

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続けて彫のある短刀の全身押形を採拓させて頂きました。
鍋島家に伝わった景光の短刀に倣い、高橋貞次が作刀したものです。

表 元亨三年二月日 以余光鉄 備州長船住景光
裏 鍋島景光ニ倣ㇷ 源貞次 紀元二千六百一年八月日 彫同作(花押)
棟 為井内彦四郎氏作之

片切刃短刀で、表 樋中に素剣の浮彫、裏 孕龍。
この造りは、貞次が倣った景光元亨三年(重美)の八年前、来国俊正和四年の短刀(重美)にも見られます。
来国俊の彫りが後彫りでなければ、景光は来国俊の作に倣ったのかも知れません。(大本となる作は海老名小鍛治宗近と考えられるようです)
また、少し寸は延びますが肥前忠吉にも同作があり、特別重要刀剣に指定されています。

貞次作の本短刀は、紀元二千六百一年(1941年)の作刀年紀がありますが、鍋島家に伝わった重美の景光短刀は1940年、靖国神社遊就館で開催された「紀元二千六百年奉祝名宝日本刀展覧会」に出陳されています。そこで景光短刀を見て影響を受けたのか、または棟銘にある注文者、井内彦四郎が遊就館で見て注文をしたものか、興味は尽きません。

紀元二千六百年奉祝名宝日本刀展覧会出陳刀図譜景光掲載頁(国立国会図書館デジタルコレクション)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1139254/201
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1139254/200

(樋中の素剣の浮彫ですが、彫りの底まで硬く磨り写してしまったため、立体感の無い平面な彫りとして記録する事になってしまい、この採拓方法は正しくありませんでした。底に向かいグラデーションを付けるか、協会の採拓法が正しいと思います)



欄間透

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美濃の陳直(のぶなお・桃山時代)の短刀。
重ね9.3mm 柾目が目立つ出来です。
欄間透の彫りがあります。

彫り物のある刀は押形採拓に手間が掛かるため避けて来たところがありますが、この陳直は大変出来も良く、何より存在自体が珍しい陳直ですので押形採拓をさせて頂きました。

しかし欄間透である上に彫がかなり深い位置にあり、彫をあまり磨り出せず。。
以前初代忠吉の宗長彫の欄間透の押形をとらせて頂いた事があり、確認してみると三鈷柄までなんとか磨り出せていました。
https://kyoto-katana.com/wp-content/uploads/2014/05/rannmatadayosi3.jpg
もう何年も前なのでどうやって採ったのか覚えていません。。
今回は差し表にちょっと大きめの穴が空いてしまった。