研磨工程を ⑭ 研磨完了

某日、裏の刃取りが完了。(工程を紹介する都合上、「表が完了し裏に移り、裏が完了」と言う風に綺麗に進んでおりますが、実際は表を刃取ったり裏を刃取ったりと表裏の調整を行いながら研磨を進めています)
刃取りは、刃文にかなり忠実に細かく刃取る方や、刃文に縛られず(縛られずと言う表現は正確では無いと思いますが簡単に言い表す良い言葉が見つかりません)かなり大きく刃取る方などさまざまですが、私は大きく取る刃取りを理想としています。 もちろん何でもかんでも大きくやってしまう訳ではありませんが。
しかし「大きく刃取る=手抜き(細かく刃文に忠実に刃取る方が技術が要り時間がかかる、大きく取るのは細かく取る技術が無くまた時間短縮の手抜きだと)」と見る方が以外と多く居られます。
まったくその通りの理由で簡単な刃取りで済ませて居る刀も沢山有りますので、考え抜いた末の大きく滑らかな刃取りとの違いを見分ける事は初心者の方には難しいかもしれません・・・。
私は大きな刃取りを理想としていると言うだけで、まだまだ刃文の谷を刃取りの山とするのにも毎回大きな勇気を必要としています。
刃取りの才能の有る人は刃文の構成から瞬時に刃取りのイメージを完成させ、躊躇無く大胆に刃取る事が出来ると思いますし、結果無駄な過程を省き短時間で完成出来ると思います。
この辺のところは、経験でカバー出来るのかどうかどうも微妙な感じがします。
後は砥石の質です。 

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棟の磨きは既に終えておりますのでこれで全ての研磨が完了です。(今回は平造りでしたが鎬造りの場合はこの他に鎬地の磨きや横手を切る作業、鋒をナルメる作業などがあります)
※艶入れ以降の画像はデジタル画像の性質上、刀身の実物よりも肌の出方が強く見えたり肉眼では全く確認出来ない色ムラが強調されたりと、画像としては課題の残る物です。  それらを解決するには部分画像を使用すれば済むのですが、工程の紹介と言う意味であえて刀身全体画像を使用致します。



研磨工程を ⑫”

先日から刃取りに入っています。
以前も書いた通りこのへんの詳しい説明はやめておきますが初歩的なところだけを・・。

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刃取りは研ぎの流派や個人の考え方により多種有りますが基本は大体同じではないかと思います。
上の写真は刀身を四方向から見るものです。
基本としてこの四方向いずれから見ても違和感が無ければバランスは取れていると言えます。
しかし通常は茎を下にして立てた状態と、刀ならば刃を上にして横に、太刀ならば刃を下にして横に見ると言う二方向から見て違和感が無ければ良しとすると思います。
しかしあまり違和感やバランスを気にしてしまうと、”緊張感”とでも言うのでしょうか、アンバランスから来る独特な雰囲気が消えてしまいますので、刀の伝法や時代、刃文の構成などにより刃取りも変えて行かなければなりません。
(刀の出来を表す言葉は昔から多数有るのですが、基本的な刃取りのバランスの事を書こうとしただけでもその状態を表す言葉が過去の書籍などで見た事が無い事に驚きます。それだけを見ても”研ぎ”とは刀匠が鍛えた刀をいかに美しく見せるかだけに徹した裏方である事がわかります。)
刃取りのバランスと言っても、もしも普段意識せずに見ていた方が居られれば分かり難いかも知れません。
刀身彫りや小道具、鞘塗りなどで「陰陽」「昼夜」など対極表現がよくありますが、刃取りも陰と陽の見方で見るとバランスも見えてきます。
刃文(刃取り)を中心に見れば、白く刃取った部分の形が「陽」、黒い地鉄部分の形が「陰」です。
バランスを考える場合、陰と陽を逆転して意識すればそれが見えて来ます。
先に書いた「しかしあまり違和感やバランスを気にしてしまうと、”緊張感”とでも言うのでしょうか、アンバランスから来る独特な雰囲気が消えてしまいますので・・」これと重なりますが、例えば丁子はどう刃取るか、助廣、一干子、越後包貞、助隆をどう刃取るか、相州伝をどう刃取るべきかなど、各流派や個々の刀によって刃取りはさまざまですし、一概にどれが正解と言えないものだと思います。
俗に言う「化粧研ぎ」の代名詞が”刃取り”だと思いますが、知るほどに先の見えない奥深さが見えてきます。