入鹿の槍、南紀真改、菊池槍
入鹿の在銘短刀と槍を拝見。
短刀は久々の再会。槍は初めて。
この短刀はやはり素晴らしい。繊細で上品。
一方槍は非常に武張った物。以前から押形では見た事があったが、誠に失礼ながら、ここまで良い品だとは思いもよらず本当に驚く。
地は保昌を少し柔らかくした雰囲気、錵は当麻、刃文の華やかさは千手院。
茎の保存もほぼ完璧。艶のある大変良い鉄味。入鹿を自らの郷土刀的意識で見てしまう私は、この深く強いタガネの個性的な銘振がたまらない。
鑑刀日々抄をパラパラしていて「熊野山住」と銘文にある入鹿を見つける。往昔抄で見て憧れていたが、現存の品に熊野山住の銘があったとは。
同日、南紀真改の刀と寸延びを拝見。
あまり知られていない刀工だと思うが、紀州の鍛冶。
大小ともに大変良い地鉄(実際は大小として存在するものではない)。
大の方は直刃で大変冴えた刃文。堀井胤吉の上出来を更に数段良くした様な雰囲気か。
この刀、研ぎが尋常じゃなく良い。普通の研師ではこの様には絶対に研げない。
菊池槍の押形をとる。全身で。在銘。
菊池槍は度々研がせて頂いて来たが、茎を切断し短刀に直した物が多く、ウブ状態の品はそれほど多くない。
いつ頃から発生した物かと思い少し調べてみたが、南北朝期の発生との説が多い中で、刀美626号「南北朝期大太刀についての一考察」に鎌倉後期に描かれたと伝える絵巻に菊池槍を持つ武人が描かれて居るとの記述があり、菊池槍は鎌倉時代には既に存在したのかも知れない。
現存在銘菊池槍の上限だが、刀美349号(昭和61年)「『菊池槍』考」に建武三年紀の品が菊池神社に収蔵されているとあり大変興味深い。(昭和47年刀美186号の時点では佐藤寒山先生がこの号の表紙解説の中で、「現存するものには室町時代以前の作と鑑せられるものはない」と書かれており、私もその様な認識で居た)
今回押形途中の菊池槍作者、銘鑑に二人。一人は正長頃。光山押形で確認したが銘振りが明らかに違う。今一人の方ならば正平。もしもこれに該当すれば、在銘最古に類する物なのかも知れない。
また、2014年1月の支部だよりに「延寿国時菊池槍」との記述がある。国時も代を重ねているがどの時代の国時か、気になる。