延寿の帽子(2)

先日の支部鑑定で金象嵌銘の延寿国時(重刀)が出題されました。
3月京都府支部入札鑑定 | 玉置美術刀剣研磨処|京都・左京区

「1号刀、身幅広め、重ね尋常。中鋒。鎌倉末期から南北の造り込み。
地鉄詰み気味。鎬寄り映り気。全体に白ける感。
直ぐ小湾れ、小錵。食い違い。二重刃がかる箇所。帽子青江風。
色々考えられるがとりあえず古三原と入札。」

何故古三原に入れたのか、一番の理由は刃の小錵感と冴え方です。食い違いも少し。
白けのある古三原もありますがそこは考慮せず。
結果は「イヤ」。
山陽道の古三原で「イヤ」と来ましたので可能性の一つと考えていた青江も無くなりました。
造り込み等に違いはありますが一応の候補である二王も消滅。

単純に考えて、残るは西か畿内。(宇多はよぎらず)
しかしここでは西の可能性を疑う事なくほぼ即断で来国光に。(了戒より強い刃でした)
その訳は、過去に見たり研磨してきた多くの無銘来国光の極めの幅が非常に広く、今回の刀もその範疇と感じたから。
結果は「イヤ縁」。
来国光と書いてこのヒントが出たという事は、入札した来派に縁のある刀工、即ち延寿一派の作という事になります。

この1号刀、もしも帽子が大丸や大丸気味だったとしたら、おそらく1札目に延寿の誰かに入れていたはずです。
帽子が大丸だというだけで、先に書いた様々な要素は全部すっ飛ばして延寿に行ってしまうという事なんです。
大丸のインパクトって凄いですね。
悪くいえば「延寿=大丸」のイメージに支配されちゃってるとも。

で、延寿の帽子調書です。

無銘の延寿極め
103口中、大丸や大丸ごころなどは21口(20%)
在銘延寿
45口中、11口(24%)
無銘個名極め
40口中、7口(17%)

こんなに少ないのかと思うか、案外あるねと思うのかは経験値によるところでしょう。
支部鑑定に延寿はほぼ出た事がなく、過去に本部から2度来た程度だと思います。
無銘延寿は度々研磨しますが地鉄が一様ではなく案外幅広い質に感じていて。しかし今思えば概ね九州物らしい地鉄なのでしょう。

帽子についてですが、延寿の大丸率に比べると他国はぐんと下がります。
帽子データから考えると、帽子が大丸でその他が尋常ならば延寿と見て差支えないでしょう。
しかし「大丸じゃないから」との理由で延寿を完全に除外するのは非常に危険だという事が分かります。
鑑定でも極めでも、1つの特徴が決め手となる事もありますが、1つに頼り過ぎず総合的に判断する事が大切ですね。


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